アルツハイマー型認知症の治療薬レカネマブ…6カ月使ったらどんな変化が生じたか?【第一人者が教える 認知症のすべて】
【第一人者が教える 認知症のすべて】 今回は、当院でレカネマブ(商品名レケンビ)を6カ月間投与した患者さんの症状の経過についてお話ししたいと思います。 アミロイドβの次はタウタンパク質を除去する薬の開発【アルツハイマー病治療最前線】 この内容は「実臨床でのレカネマブ6カ月後の転帰」と題して、11月20日発行の「老年精神医学雑誌」に掲載されています。レカネマブにおいて当院は日本で最多の投与実績があり、6カ月間経過の帰結に関する日本で初めての論文になります。 レカネマブについてざっとおさらいすると、アルツハイマー型認知症の根本治療薬として昨年、初めて承認を受けた薬となります。 アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβを除去する働きがあります。 国内外の患者さんが参加した第3相臨床試験では、プラセボ群と比べて「認知機能が維持される」ことが統計学的に有意差をもって示されています。 どれくらいの差かというと、18カ月間の投与で進行を7.5カ月抑制するというもの。 同試験の安全性評価結果では、副作用の発現率が10%以上。発熱などの反応は26.4%、脳MRI画像で脳の微小出血・大出血・鉄沈着が見られる有害事象は17.3%。脳の浮腫は12.6%でした。 18カ月の二重盲検試験期間中における死亡例は0.8%です。ただし、アミロイドβを減少させる薬の副作用でMRI画像に脳内の異常が示されるARIAに関連する死亡例はなし。 なお、有害事象の脳出血、鉄沈着、脳浮腫はARIAになります。 臨床試験には、試験ごとに適格基準が設けられており、対象者も条件を満たした患者さんになります。つまり、その研究の内容や目的にあった人が選ばれているので、では、実際に臨床の現場でレカネマブを投与したらどんな結果が出るのか? それを示した結果が、今回の論文の内容となります。
副反応の出現率は臨床試験より上…投与中止に至ったのは3例
6カ月間の経過を見た患者さんは、男性9人、女性16人の計25人(平均73.2歳)です。当院での投与1例目から連続25例目までの方になります。 6カ月間での副作用発現について、注入に伴う反応は25例中7例(発現率28%)。アミロイド関連画像異常ARIAは25例中5例(20%)。 レカネマブの第3相臨床試験では、859人のうち日本人が88人でした。日本人だけの副作用発現率を見ると、注入への反応は10.2%、ARIAは14.8%なので、臨床試験よりも当院の患者さん25例、つまり実臨床の方が副作用の発現が多くなっています。ただし、1回目、2回目に出てくる方がほとんど。また高齢ほど副作用が出る方が多かった。 ARIAでは重症例2例、中等度1例、軽度2例。このうち点滴中止が3例ありました。 点滴中止で様子を見た3例の患者さんは、いずれも4カ月後のMRIで画像異常がほぼ消失されていることが確認されました。 そのうちの1人、70代後半の女性では、レカネマブの点滴前、点滴1回目、2回目と問題がなかったのですが、3回目で吐き気、混乱などの症状。近所の脳外科に緊急入院し、MRIを撮ると画像上で脳浮腫が見られました。しかし症状はそのあと消えて通常の状態に戻りました。 また、80代の患者さんでは、1回目の点滴から2カ月ほど経った頃に困惑・混乱症状が現れ、「お世話になりました」と言って自転車で出かけ、翌日に帰宅されました。MRIで微小出血があり、点滴は中止となりましたが、精神症状が出たのは1回だけ。4カ月後の画像診断ではARIAはほぼ消えていました。 物忘れの検査も行っています。認知機能を評価するMMSE検査では、一人一人では上がっている人、下がっている人がいて、80%が継続投与が適切という結果。しかし6カ月という短い期間ということもあり、平均値となると、有意差はありませんでした。 レカネマブは、投与前にアミロイドPETでアミロイドβの量を測定することは必須(保険適用)ですが、それ以降、2回目のアミロイドPETは自費になります。つまり、レカネマブでアミロイドβがどうなっているかは保険適用では調べられません。ただ、他の患者さんになりますが、半年治療後に自費でアミロイドPETを受けたところ、4例全員がアミロイドβ減少となっていました。 今後もレカネマブの投与でどういう経過をたどるのか、患者さんとともに治療を継続していきたいと考えています。 (新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)