『23区格差』著者池田氏に聞く 定住率を上げてもまちの人気につながらない
20年後には深刻に 分譲マンション空き家問題
定住率がまちの新陳代謝と関係しているという視点からも見逃すことが出来ないのが、今後増えていくとみられる空き家問題です。 ── 空き家問題として、まず団地問題があります。23区初の大規模団地として1962(昭和37)年日本住宅公団(現UR都市機構)が建てた赤羽台団地の高齢化率は52%、対して子どもの人口比は1.5%です。でもまだ救える。実際に建て替えが行われたところもあります。また、豊島区は民間の狭い賃貸空き家物件が多いので、基本は市場原理ですが、行政のバックアップもあればうまくいくでしょう。大変なのは、世田谷区の戸建ての空き家です。老朽化した空き家に対し、行政が措置を行える法整備もされてはきましたが、これは難しいです。 ── さらに深刻なのは20年後には起こる分譲マンションの空き家問題です。マンションは40~45年が寿命といわれますが、住民合意がなければ建て替えられない。これは大変な手間で、そのとき住民が高齢者ばかりになれば、その意欲がわかないでしょう。実際に、かつて住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)がマンションへの融資を行ったはしりの物件で建て替えが始まりましたが、実はこれらの古いマンションはまだよいのです。古いマンションは容積があまっているため、5階建てを10階建てにすることで自分たちの建て替え分がでますし、大手開発業者も参加しています。でも、タワーマンションはどうでしょうか。定期借地権つきマンションだったらどうでしょうか。その時になったら、物件を手放し、違うところへ引っ越すと考えるのではないでしょうか。
一極集中への是非を知事候補には表明してほしい
東京のまちを支えるものとして「ものづくり」「商店街」をみています。 ── 知事候補から話はあまり出ませんが、東京のものづくり力のすごさ、これをどのように守り、育てるか、言ってほしいと思います。「下町ロケット」のような話は東京にいっぱいあります。文京区は日本一の製本のまちですが、製本にまつわる裁断だったり、綴じだったり、たくさんのプロがいるわけです。目に見えるまちの力としては、商店街の存在が大きいです。実は、東京ほど商店街が活発に動いているところはありません。葛飾など下町だけでなく、世田谷の高井戸・経堂などよい商店街がしっかり残り続けています。知事候補は言いませんが、これは都がしっかり支援しているからなのです。世田谷の商店街は空き巣の見回りをしていますし、品川の子ども見守り運動もあります。子どもを安心して育てることができる、そして家族からまちの力につながるコミュニティーの力をもっと評価してほしいです。 池田さんは、知事候補に最も聞きたいこととして、東京の「一極集中の是か非か」を挙げます。 ── 東京の財政規模はスウェーデン並みといわれます。つまり都知事選はほかの自治体の知事選と違い、一国の大統領選挙のようなものといえるでしょう。是非、候補者には長期的な目で構造的な変化をつかんで、東京をどうしようとしているか、大きなビジョンを示して欲しい。一番聞きたいのは、一極集中をどう考えているか。是か非か。これからもなお膨張路線でいくのか、抑えていくのか。待機児童もある面、子供幼児の一極集中によるものといえます。 ── 本来、保育の問題は区市町村の仕事です。そして東京には優秀な役人がたくさんいます。わたしは、東京は全国にモデルを示す、というもうひとつの仕事があると考えています。それは東京が経済的な余裕・ゆとりがあるからです。これから、日本全体が縮小し、地方が縮小することになれば、さらに強いところに集まる傾向になるでしょう。バブル期まで日本が安定して成長していたころ、「地方の時代」という言葉が出ましたが、そのとき、ほとんどの地方でも、県庁所在地に一極集中したという歴史があります。富の集中する東京が何をすべきか、ビジョンをみせることは、地方に新しい生き方を示していけると思います。細かい政策も大切ですが、都の知事候補には、10年、15年ぐらいで東京を考え、ビジョンを示していただきたいです。