『23区格差』著者池田氏に聞く 定住率を上げてもまちの人気につながらない
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東京都の新しい顔となる都知事選の投開票日が31日に迫ってきました。都知事候補は課題山積の首都東京で、難しい舵取りが求められています。 そこで『23区格差』(中公新書ラクレ)の著者で、一般社団法人東京23区研究所所長・池田利道さんに、データを交えながら、かつての定住推進政策がもたらした「現状と課題」、候補者が表明すべき「ビジョン」について考えを聞きました。 東京都知事選では12人が没収 「供託金」は何のためにあるの?
定住率の高さがまちの成長につながらない
池田さんは常識のウソのひとつとして、定住率のデータを挙げます(グラフ1)。東京23区で定住率が高いまちと、住みたいまちとして人気の高いまちが一致しないからです。 ── 地方創生は定住されるまちづくりを目標とし、転出を止めようとします。転出者が多いまちは衰退すると常識で考えられているからです。しかし、よく使われる人口増加率のデータをみるとどうでしょう。東京の離島の利島や御蔵島、沖縄の北大東島が全国上位に入ったりしますが、それはほんの数十人増えた結果で起こったことです。例えば、公共事業で大量に島に人が入ったりするだけでそうした数値が出てしまうわけです。
代わりに池田さんが着目するのが転出率と転入率の両数値が高いことです。転出率が高ければ転入率も高くなり、人口が増えるまちとなる(グラフ2)。これはどういうことでしょう。 ── 転出・転入の人の流れをプールや水槽に例えるとわかりやすいと思います。たくさんの水を出して、大量の水を入れることで、中の水は大きく入れ替わります。一方、出て行く水が少なく、入ってくる量もわずかだったら水がよどむ。つまり高齢化が進みます。まちの転出・転入両方が活発に進むことは、まちにも新陳代謝が大事ということです。実際にその新陳代謝が大きい区(千代田・港・中央)は人口が増えています。渋谷はヒカリエがきっかけになりました。一方、定住率は高くても人口が減少した足立区は新陳代謝が弱いということです。右肩上がりの時代の成長路線で、人も収入も増え、土地も上がる時代には良かったのでしょうが、人口減少に入り、経済頭打ちの時代に入っても、自治体が定住は良いとする、その常識は通用しないのです。