『光る君へ』筆マメな藤原宣孝の猛アプローチで夫婦になるも、紫式部が新婚早々に大激怒したワケ
■ 天皇をも追い詰める「道長の横暴」をどう描くのか 一方、内裏では一条天皇がすっかりダメ男に成り下がっている様子が、ドラマでは描写された。中宮の定子がいる職の御曹司に入り浸った一条天皇は、政務を顧みなくなってしまい、災害への対策が遅れてしまうありさまだった。 災害とは、淀川の氾濫である。ドラマでは道長がこう怒りを募らせる場面があった。 「鴨川の堤の修繕について勅命はまだ降りんのか! 大水が出てからでは遅いのだ!」 しかし、一条天皇の腰は重く、渡辺大知演じる蔵人頭の藤原行成が、気の毒なほどに板挟みになる様子が描かれた。 実際にひどい洪水が発生したようだ。長保2(1000)年8月16日、鴨川の堤が決壊して、人の家が数多く流れたことが記録されている。 ドラマ上では、洪水による甚大な被害を、道長はあえて自分の責任だとして、辞表を提出。一条天皇が慌てて引き留め、己の失態を認めることとなった。 今回の『光る君へ』で、おそらく私だけではなく、多くの人が注目しているのが、道長の権力者としての横暴な振る舞いをどう描くのか、ということだろう。 一条天皇については、道長が権勢を振るったため、政治に関与できなかった……という見方が強かったが、ドラマでは「一条天皇がすでに出家している定子を寵愛した」という点から「定子への愛に溺れて政務をおろそかにした暗君」として描くことで、道長が権勢を誇ったのは仕方がなかった──と視聴者に思えるような展開にしている。 今後、一条天皇は病に伏せって退位し、三条天皇が即位する。その三条天皇に対して、道長はかなり強引に退位を迫ることになる。眼病を患っている三条天皇にも容赦なかった道長を、どんなふうに描くのだろうか。 次回「いけにえの姫」では、いよいよ道長が長女・彰子(あきこ)を入内させる。今回の放送で、安倍晴明が出したヒント「よいものをお持ちではございませんか」の意味に、道長は気づいたのだろう。 当然、邪魔になるのは定子とその子供たちである。どんな運命が待ち受けているのか。目が離せない展開となりそうだ。 【参考文献】 『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社) 『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館) 『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館) 『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書) 『敗者たちの平安王朝』(倉本一宏著、KADOKAWA) 『藤原伊周・隆家』(倉本一宏著、ミネルヴァ書房) 『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)
真山 知幸