「ニホンザルが魚を食べる」発表した大学教授 疑問よせられた論文、証明した写真
名物教授訪問@信州大学
地球上には多種多様な生き物たちが生息していますが、それらの進化の過程や生きざまは、まだわかっていないことがたくさんあります。信州大学理学部理学科生物学コースの東城(とうじょう)幸治教授は、ゲノム解析など最先端の技術を活用し、生き物の不思議を解き明かす研究をしています。 【写真】元日テレ・桝太一さん、研究者としての日々を語る
現在、地球上に存在する生物は、名前がついているものだけでも約200万種。未知のものも含めると、その10倍以上と考えられています。それらの多種多様な生物は、1つの共通生物から種が分かれ、進化してきました。「進化生物学」は、進化の道筋をたどり、種の起源や繁栄、生物の多様性などを明らかにしていく学問です。 最大の手がかりともいえるのが、それぞれの生物が先祖代々受け継いでいるDNA(遺伝物質)です。東城教授はこう話します。 「遺伝子解析の技術は目覚ましく進歩しています。生物のDNAを解析することで進化のプロセスだけでなく、その生物がどのような環境でどう生活しているかといったことまで見えてきます。『こんな世界があったのか』という感動があり、それがこの研究の面白さです」
3シーズン続けた「ふん採取」
2021年11月、東城教授たちの研究グループは、「厳冬期の上高地で、ニホンザルが川の魚を食べて越冬していることを確認した」という研究成果を発表し、国内外のサルの研究者たちを驚かせました。もともとサルの仲間は暖かい地方に生息する動物で、一般的に水が苦手とされており、川の魚を食べているという報告は、世界で初めてでした。 この研究が始まったのは17年冬。東城教授たちは当時取り組んでいた水生昆虫の調査のため、長野県の上高地に入山しました。現地でニホンザルの姿を目にしたイギリスの研究者から「雪山にサルがいること自体が驚きだが、厳冬期に何を食べて生きているのか」と質問されました。 「私が『川虫を食べている』と答えると、彼は『それは国際的には発表されていないから、論文にすべきだ』とアドバイスしてくれました。サルが川虫を食べることは知られてはいますが、確かめられてはいません。川虫の中でもどのような種類を食べているのかといったデータもありませんでした」 東城教授がサルのふんを集めてゲノム解析したところ、予想通り、川虫のDNAが見つかりました。さらにイワナなどサケ科の川魚のDNAも出てきました。 「魚を食べているというのは想定外で、驚きました。冬の3シーズンの間、サンプルが偏らないように1カ月ごとに期間をあけたり、群れが重ならないようにふんを採取する場所を変えたりしましたが、やはり魚のDNAが検出されました。うちの研究室ではイワナの研究もしていたので、そのDNAがサンプルに混入した可能性も疑いましたが、部屋を変えて解析しても魚のDNAが出てきました。川の水にもわずかに魚のDNAが含まれますが、それを飲んで取り込んだにしては、ふん中のDNA量が多すぎます。やはり魚を食べていると確信し、21年に論文を発表しました」