「僕も藤浪にならなきゃ」甲子園常連校、大阪桐蔭・西谷監督が明かす組織作りと選手育成術
● 組織として弱いなと思った年が 結果的に優勝できている このノートには、個人のことは書きません。その日の練習のこと、チームのこと、強くなるために組織としてどうあるべきかを書く。それに対して、僕がコメントを書く。読んだ方がいいなと思った新聞記事を貼ったりもしました。 こういったノートは毎年作るわけではありません。組織として弱いなと思ったときにやります。最初にやったのが14年の中村の代でした。「天然もの」のリーダーがいるときって、案外、サブリーダー的な存在が育っていないことが多い。リーダーに任せきりになるからなのかなと思います。 結果として、このノートを活用した14年は夏、17年は春、そして「ノートをやらせてください」と自分たちから言ってきた18年は春夏と甲子園で優勝することができました。2022年の選抜を優勝した今の3年生も、このノートに取り組みました。組織として弱いなと思った年が、結果的に勝っているんです。おもしろいものです。 柱となる選手が何人いるとか、どこからアプローチするとか、その年によって違いますし、答えはないのですが、どういう組織を作るかということは、大阪桐蔭の野球にとってはそれだけ大きいことです。 リーダー論、組織論は難しいです。色んな本を読ませて、感想を言わせたり。これはまだやっていませんが、2022年のサッカーW杯の日本代表の戦いぶりにも、感じることはありました。 あれだけ後半に出る選手が活躍する。どれだけのモチベーションで準備をしていたのか。長友佑都選手くらいの(実績のある)選手が、ベンチにいてもあれだけチームを盛り上げることが出来るとか。 後半勝負に持っていく。スタメンの選手だけじゃないってことなので。すごい組織だと思うんですよね。 そういう話もこれから選手たちにしていくと思います。
● 藤浪と感覚をすり合わせるため 僕も藤浪にならないといけない 2011年の冬、2年生だった藤浪(晋太郎)とは1カ月ほどかけて「すり合わせ」をしました。 秋の近畿大会で天理(奈良)に負けた後、藤浪と話をして、「スローシャドー」という練習に取り組ませました。実際にはボールを投げず、ゆっくり、ゆっくり、投球動作の一つひとつを体に染みこませるように繰り返す練習です。藤浪はどうしても、体の軸から右腕が遠くに離れてしまうフォームでした。感覚的には、胴体に「巻き付くように」腕を振れるように、という狙いで思いついた練習方法です。 「ちょっとやりたい練習があるから、ゆっくり話をしよう」と藤浪に伝えると、最初は「ん?」って感じの反応でした。たぶん、めちゃくちゃ走るとか投げ込みをするとか、「猛練習」を想像していたんでしょう。 藤浪に何かを感じ取ってもらいたい、気づいてもらいたいという思いでした。フォームを撮影しながら、「こっちの方が良くないか?」「いえ、今のは良くなかったです」といったやりとりを繰り返します。藤浪が良いと思っても、僕が良くないと思うときもあれば、その逆もありました。 外から見ていいと思っても、それを選手本人が良いと思うかは分からない。「あかんと思ったらちゃんと言え」と伝えていました。2人の感覚を合わせていく作業を、1カ月ほど繰り返しました。 根気のいる練習です。藤浪はじっくり取り組める選手でしたが、途中から根気がなくなって、一度叱ったりもしました。「いや、もっとじっくりやりたいねん」と。あいつは多分2、3日で終わると思っていたんでしょうね。 感覚をすり合わせるためには、僕も藤浪にならないといけません。藤浪は身長197センチ。隣に呼んで、ブロックを二つ積み上げて、僕がそこに上ると、ちょうど藤浪と同じ目線になりました。半分、笑かすのもありましたけど、気づきもありました。「こんな景色なんや」と。