「農家の近くに住み、直接仕入れた新鮮な野菜でお弁当を」新天地・福岡県広川町で店舗構える
弁当店主 勝倉雪紗さん(28)
福岡県広川町の観光拠点施設となっている町産業展示会館。透明のショーケースには「なすの甘酢煮浸し みょうが添え」や「ゴーヤとしめじの桜えび中華ナムル」など、彩り豊かで食欲をそそる総菜が並んでいた。同館内で弁当店「todoke!」を営む勝倉雪紗さん(28)は「SNSを見て遠方から来られる人も多いですよ」と笑顔を見せた。 【写真】県産野菜を使った勝倉さんの弁当
料理好きな母の影響で、小学生の頃から台所に立った。東京の学校で調理を学び、料理教室の講師やカフェ店員などを務めた。
転機は2021年冬。「食材が手元に届く前の生産の現場を見てみたい」と考え、地方に暮らしながら農作業を体験する事業に参加し、福岡県内に約1か月滞在した。
当時は食の世界に身を置きながら、生産現場との関わりは薄かった。交流を深める中で、農家が土作りや栽培方法にこだわり、まるで我が子のように作物に愛情を注ぐ姿を目の当たりにした。熱い思いに心を打たれ、農業の大切さを感じた。
旅行でたびたび訪れていた福岡については元々、都会的な部分と田舎的な部分の両方の良さを感じ、「いつか住めたらいいな」と漠然とした思いを抱いていた。「顔の見える農家の近くに住み、直接仕入れた新鮮な野菜でお弁当を作りたい」。こうした思いを強め、新天地・福岡に飛び込む覚悟を決めた。
翌年には食品加工ができる施設を見つけ、拠点を筑後地区に据えることに。22年10月の移住後は、イベント向けに弁当の製造・販売を始め、実店舗は今年5月から構えている。
8種類の総菜から好きなものを選ぶ仕組みで、全種が入った「旬彩おべんとう」は1200円(税込み)。季節の野菜をふんだんに使うためメニューは日替わりとしている。薬味や調味料の種類や分量を細かく変え、家庭的でありながらアイデアを盛り込んだ味わいが特徴だ。
仕込みのため、午前6時半に厨房に入ることもあるが、「『食べていて面白い』『おいしかったから、また来ました』と言われるとうれしい。だから頑張ることができる」とほほ笑む。