王道ラブコメに胸キュンしつつ、家族愛に感動できるドラマ『王様に捧ぐ薬指』
家族もの、お仕事ものとしても楽しめる多彩な物語
二人は仲の良い夫婦を装って動画配信を行うため、毎回、ドキドキのラブラブシーンが登場。しかし、カメラ前ではイチャイチャしながら、録画を停めた途端にそっけなく素にもどったり、けなし合ったりするのが面白い。一見冷徹で誰もが恐れる“キング”こと東郷と、彼に物怖じせず明るくサバサバと意見をぶつける綾華という二人を、コメディ芝居にも長けた橋本環奈と山田涼介が好演。そのテンポの良い掛け合いが絶妙で、特典映像などでもお互いに相性の良さを語っている。 綾華と東郷は、似たもの同士。気が強く弱音を吐かないし、言い訳もしないため、誤解を受けやすく、友人も少ない。似たもの同士だけにお互いを知る中で惹かれ合うことにもなるが、反発もしやすく、気丈すぎる性格が災いし、すれ違いも多い。誰もが「二人がいつ本物の夫婦となっていくのか?」という過程を描くと予測するだろうが、一筋縄ではいかない。容姿にも家族にも恵まれて生きてきたように見えるが、他人のことを思って別れを選んだり、ワルモノ呼ばわりされても受け入れることが多く、実は不器用に生きてきた。そんな二人には、ハッピーエンドだけでなく切ない別れを予感させるものもあり、二転三転するドキドキの展開を見せていくことになる。 綾華と東郷のラブストーリーを中心にしながらも、本作には他に二つの柱がある。一つは綾華と東郷の仕事。二人にとってはラブラブの夫婦を演じることも仕事になるが、それも本職の結婚式場『ラ・ブランシュ』のため。同性婚、離婚式、二次元の推しとのソロ婚などの現代的な結婚式から、カスハラやご祝儀泥棒のようなトラブルまで、ブライダル業界のお仕事ものとしての物語も描かれていく。綾華はたまたま就いただけだったウェディングプランナーの仕事にやりがいを感じるようになり、東郷は名家の後継者として両親のプレッシャーを受けながらも経営者としての手腕を振るっていくという二人の姿が、生き生きと綴られる。 そして、もう一つの大きな柱となるのが、家族の物語。綾華の育った羽田家は、近々赤ちゃんが産まれる7人家族で、店舗を兼ねた小さな家に愛犬のネギと共に暮らしている。生活は厳しそうだが、明るく賑やかで、幸せそうな下町の大家族。モテすぎて外では孤独で気丈に振る舞ってきた綾華が、明るく真っ直ぐに生きてこられたのは、愛に満ちた家族の中で育ってきたからこそ。綾華は度々実家に帰ることになるため、その家族団欒風景は、見る側にとっても癒しになる。一方、東郷の育った新田家は、両親共に名家出身の由緒正しき厳格な家庭。巨大企業グループを経営しており、一人息子の東郷への期待も高い。こちらでは家族団欒などは一切なく、東郷と母・静(松嶋菜々子)には深い確執がある。次第に明かされる新田家の複雑な家庭事情は、東郷だけでなく綾華にも大きな影響を与えていく。この羽田家と新田家の両家の物語、そして、偽りの家族となった綾華と東郷。ラブコメとして見始めた本作が、最後には大きな家族の物語であることに気付き、胸を揺さぶられることになる。