【デイトナはすでに高値の花……】見逃してませんか?ホイヤーの傑作クロノグラフ
モータースポーツを支えてきた時計として、コアな時計ファンに留まらない幅広い支持を集めてきたのがホイヤーのカレラだ。ホイヤー社の創設は1860年で、82年にはクロノグラフで特許取得。89年のパリ万博にスプリットセコンドクロノグラフを出品し、1916年には1/100秒計測可能が可能な“マイクログラフ”を開発するなど、クロノグラフ分野では懐中時計の時代から抜きん出た実力を誇っていた。 【画像:デザインも魅力的な70年代の自動巻きカレラ】 カレラ初代モデルは、1963年に創業家4代目ジャック・ホイヤーの手によって生まれた。 モデル名の由来は1950~54年にメキシコで開催されていた“カレラ・パン アメリカーナ・メキシコ”というレース。3000kmを超える荒野を走破するこのレースは、非常に過酷でスパルタンなもので、この過酷さにロマンを見出し、その走破に耐える時計の開発を目指したわけだ。 初代カレラは36mm径と現代の基準から見るとやや小振りの3カウンター仕様で、搭載ムーヴメントは流通量が多かったバルジューのCal.72。Cal.72はロレックス デイトナに搭載されていたことでもよく知られるが、この時代のカレラとデイトナを並べてみるとケースやダイアルデザインまで非常に似通っている。これに関しては、両社が同じサプライヤーからパーツ供給を受けていたということも大きな理由だろう。
その後のカレラは2カウンターモデルやカレンダー付きモデルなどバリエーションを増やしていくが、最大の変化は自動巻きキャリバーの搭載だろう。ホイヤーがブライトリング、ハミルトンと共同で、デュボア・デプラのムーヴメントにモジュール追加して生み出したCal.11は、世界で最も初期の自動巻きクロノグラフとして1969年に発表された。初期の自動巻きを積んだカレラは、Cラインケースを採用したレトロモダンなデザインが目立つ。ダイアルやケースカラーのバリエーションも一気に増えて、現代の視点で見ても楽しい。 その後クォーツショックで苦境に立たされたホイヤーは、1985年にタググループからの資本を受け入れて、ブランド名もタグ・ホイヤーに改称。しかし、90年代にはカーレース人気の高まりもあって、日本でもちょっとしたタグ・ホイヤーのブームが起こり、人気や売り上げは大きく回復した。現行ラインナップでもカレラは同社にとって重要なモデルであり、タグ・ホイヤーとモータースポーツの密接な関係をアピールしている。 60年以上の歴史をもつカレラは、スポーツクロノグラフを代表する存在だ。特にアンティークモデルは、ロレックスのデイトナ、オメガのスピードマスターにも引けを取らない素晴らしいクオリティを誇る。語りどころの多いレガシーなモデルでもある。 デイトナはすでに高嶺の花、スピードマスターもかなり価格相場を上げている昨今、まださほど値を上げていないカレラは非常にお買い得なモデルといえる。アンティークのクロノグラフを物色している人は、ぜひ注目しておきたい。
文◎巽 英俊