最近増加している『白内障本』には注意…金儲けがしたい眼科医の怪しいたくらみ
とんでもない間違いも発見
こうして作られた白内障本を、白内障と診断された患者は書店や図書館などで見つけたらすぐに手にしてしまうだろう。 ほとんどの人は、これらの「白内障本」が企業出版という広告媒体だとは思いもしない。しかし本の基本的な部分にはほぼ同じようなことが書いてあるから、白内障の情報を得るきっかけにはなる。 これらの「白内障本」の特徴は著者の紹介文が非常に細かく長い。長ければ長いほど眼科医としてのキャリアがあるように見えるからなのだ。実際は、タイトルを含めてすべてPR手法であり、書かれている内容すべてが信頼性が高いかどうかはわからない。 たとえばひどい間違いもあるのだ。 『「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術』という「白内障本」にはびっくりするような間違いがあった。 同書では、80歳男性Bの症例を紹介している。 Bは40代頃に近視矯正のための眼内レンズのICLを移植していた。右目が白内障となったため、左目のICLはそのまま残し、右目のICLを取り出して、多焦点レンズを入れた、とある。 80歳男性のICL移植が40年近く前としたら、1990年代の話である。 ICLは日本では2003年に治験が始まり、2010年に厚労省が薬事承認した。15年ほど前に始まったばかりの近視矯正の手法であり、いくらなんでも現在80歳男性が40代頃に行えたはずはない。 また同書には、80代のほとんどの人が白内障になる、とある。これに関しては正しいが、右目だけでなく左目も白内障の可能性は高いのに、そのままに放っておく眼科医はいない。 このように適当に書かれた白内障本が出版されているのだ。 しかしなぜ、これほど数多くの「白内障本」が企業出版という方法で出版されているのだろうか?
儲かる「白内障治療」に群がる医者たち
その大きな理由は、白内障手術が儲かるからである。 企業出版を依頼する目的は、眼科医院の価値を高めて、たくさんの患者に来てもらいたいからである。出版にかかる費用以上の収益が得られるのだ。 2005年3月に発刊された『日本のお金持ち研究』(橘木俊詔、森剛志著、日本経済新聞社)で、白内障手術で儲かる眼科医を紹介している。 医者の場合、高額所得者は多いが、ある特定の診療科の開業医が顕著に多数を占めている。調べていくと、非常に儲かる医者は眼科医、美容外科医などの医者であり、その科目に患者が集中しているという。 同書が調査した時点で、白内障患者は毎年10%ずつ増え続けていた。患者の需要が高ければ、儲かるのは当たり前である。 同書の出版された2005年当時、60万から70万件だった白内障の手術数は現在、190万から200万件に増えている。20年間にわたり、毎年10%ずつ白内障患者は増えているのである。 医者の数も年間約8千人ずつ増え続けているが、白内障手術を看板にする眼科医になることができれば、いくら競争が激しいとはいえ患者数も増えているから、食いはぐれることはない。 同書では、白内障手術がいかに儲かったかを「ある眼科開業医からの手紙」というコラムで紹介している。 そのコラムでは、1992年から白内障手術の人工水晶体(眼内レンズ)が保険適用されたことをきっかけに、患者が殺到して白内障手術は等比級数的な増加をみるようになったとされている。 当時、白内障手術の診療報酬はずば抜けて高かったため、全国津々浦々に、眼内レンズバブルで稼いだ『水晶体御殿』が建てられたという。 その後、厚労省は白内障手術と眼内レンズ移植の診療報酬を半額程度に下げてしまい、儲からない分野になるかのように思われた。ところが、現在でも白内障手術で確実に大きな利益を挙げている。