いま「日本の鉄道」が存続の危機に瀕している…! ついに講演会のタイトルにもなった「危機回避のためのキーワード」
インフラ点検作業員の人手不足
講演会の一般講演では、鉄道総研の各研究部長から、省人化を実現する技術が紹介された。その内容は車両よりも、電気設備や軌道、構造物といったインフラの話が多かった。鉄道では、線路という長大な設備が大部分を占めており、その維持・管理に多くの人員を割いているので、それは当然のことであろう。 従来のインフラの点検は、人の力に頼る部分が大きかった。専門性の高い技能と知識を持った作業員が定期的に線路を歩いて、目視や手作業で設備の異状を見つけていた。それゆえ、作業員の経験や勘に頼る部分も大きかった。 現在は、このような作業員を確保することが難しくなっている。それは生産年齢人口の減少だけでなく、作業員に求められる技能や知識が高度で、技術継承が難しくなっていることが関係している。
AIを活用したインフラ点検の省人化
このため近年は、インフラ点検の「車上化」が着々と進められている。ここで言う「車上化」とは、インフラ点検を行う装置を車両に搭載することを指す。たとえば本年6月に引退が発表された「ドクターイエロー」は、インフラ点検の「車上化」を実現した車両であり、東海道・山陽新幹線を走りながら線路の各種設備の「健康診断」を行っている。収集されたデータは、深夜に行われる精密検査や補修に生かされている。 現在は、インフラ点検でAI(人工知能)の導入が進められている。AIの発達によって、膨大な数の画像データの解析が可能になったからだ。 鉄道におけるAIの導入は、すでに世界的な潮流になっている。筆者は先月、<じつは危機に瀕している「日本の鉄道」の救世主となるか…世界でトレンドになっている「鉄道業界のAI活用」の現状>と題して、ドイツで開催された「イノトランス(InnoTrans=国際鉄道技術専門見本市)」で「AIモビリティラボ」という展示が初めて設置されたことや、日本の日立製作所がAIを活用した新技術を発表したことを紹介した。 いっぽう鉄道総研も、AIの活用に取り組んでいる。その例としては、車両に取り付けたカメラでレールやまくらぎなどを撮影し、得られた画像から異状を検知するシステムの開発や、異状を検知するセンシング技術の開発、そしてツールの共通化やデータ連携の基盤となる技術(プラットフォーム)の開発などがある。 ただし、これらの技術の完成度を高めるには、技術基準等の安全性や信頼性を担保するための科学的根拠の提供や、AIが学習するための膨大なデータの蓄積が必要になる。技術基準等の整備には国(国土交通省)、データの蓄積には鉄道事業者との連携を要する。 その点鉄道総研は、中立的な第三者機関なので、国や鉄道事業者と連携しながら技術の構築を支援できる。また、多くの鉄道事業者を結びつけ、組織の枠を超えた連携を図り、技術やデータベースを共通化して社会で活用できるしくみをつくるうえでも、鉄道総研が果たす役割は大きい。 このため、講演会の最後に行われた「提言」では、鉄道総研が各鉄道事業者をつなげる「接着剤」としての役割を果たし、日本の鉄道全体の発展に貢献したいという意思が示された。 冒頭で述べたように、日本の鉄道は存続の危機に瀕している。今後進む人口減少のスピードを考えると、鉄道の省人化と自動運転の導入を早急に実現する必要がある。 そこで必要になるのが、先ほどの連携だ。鉄道総研が中心になって各鉄道事業者が協力し合って新たな技術革新をもたらし、目前に迫る危機を回避する。それがまさに今、日本の鉄道に求められているのだ。
川辺 謙一(交通技術ライター)