「好きと言ってくれる相手を探し続け…」『パーフェクトワールド』の作者が描く児童養護施設と愛着障害
児童養護施設で育つ「よる」と「天雀(てんじゃく)」の恋を描いた漫画『零れるよるに』(講談社)。作者は、累計200万部を突破した漫画『パーフェクトワールド』(同)で車いす生活を送る男性との恋を描いた漫画家・有賀リエさんです。なぜ児童養護施設を題材にしたのか。そのきっかけと児童養護施設への取材を重ねる中で感じた思いを伺います。 【画像】児童養護施設がくれた「幸福な思い出」とは?
児童養護施設を題材に選んだきっかけは?
――『零れるよるに』では児童養護施設で育つ2人のストーリーを描いています。この題材に決まったきっかけを教えてください。 有賀 『パーフェクトワールド』の連載終了後、「次は何がいいか」と編集部と相談しているうちに児童養護施設が題材候補に上がりました。『パーフェクトワールド』の最終巻では主人公たちが特別養子縁組を選択する物語を描いたんですが、その時の取材で親が育てられない子どもの存在について今までよりも考えるようになったんです。 編集部としても、児童養護施設は社会問題であるネグレクトやDVといった問題を抱えていますから、題材にすることで、現代で描くべき漫画になるんじゃないかと思ったみたいです。 それに『パーフェクトワールド』で描いた子どもの姿が編集部内で好評で、「有賀さんは子どもを描くのがいいんじゃないか」と。それで児童養護施設を題材にすることが決まりました。私自身子どもを描くのは楽しかったので、そういう感想は嬉しかったです。
「施設には幸福な思い出がたくさんある」という言葉
――児童養護施設が題材に決まってから連載を開始するまで、どれくらい時間がかかりましたか? 有賀 結構かかりましたね。コロナ禍で緊急事態宣言が発令されて、取材を自粛した期間があったので……。施設へ直接伺うことが重要だと感じていたので、オンライン取材にはできるだけ変えたくないなと考えていました。 ――そこから、団体・当事者の方へアポイントを取っていったんですね。取材のアポイントはスムーズに進みましたか? 有賀 多くの方が温かく取材を受けてくださいましたが、中には少し警戒される方もいらっしゃいました。これまでもメディアのために取材協力したことがあったそうなのですが、出来上がった作品が虐待や暴力にフォーカスしたものだったらしくて。「残酷な虐待描写や、児童養護職員とのトラブルばかりがクローズアップされて悲しかった」とおっしゃっていました。そういうこともあって、取材を受けるか迷ったそうなんです。 そして実際にお話を伺うと、「施設で暮らした日々は幸福だった」「楽しかった」と言う方がとても多かった。問題は施設生活そのものよりも、逃れられない虐待の記憶や退所後の問題にあると感じました。 施設についてはトラブルが発生しやすいところもあれば、そうでない施設もたくさんあるんです。この作品では、幸福な施設の方を描こうと思いました。虐待についても直接的な描写ではなく、必要最低限の表現でどれだけ子どもたちの苦しみを伝えられるかを意識して描いています。