「好きと言ってくれる相手を探し続け…」『パーフェクトワールド』の作者が描く児童養護施設と愛着障害
職員が子どもから殴られたら、全員で対処する
――児童養護施設で働くケアワーカーからもお話を伺ったんですか? 有賀 はい。山本さんが児童養護施設にいた頃にケアワーカーをしていた方にお話を伺いました。印象的だったのは、「『親にはなれない。これは仕事だ』と最終的に割り切れる人じゃないと続かない」とお話されていたことですね。ずっと働いていると、子どもから裏切られる場面もあるそうで、そういう時に「しょうがない。親じゃないんだから」と割り切るしかないとか……。 あとは、ケアワーカーの責任の重さも感じました。ある児童養護施設では、「職員を守らないと子どもを守れない」と、トラブルが起こった時は全職員が集まるシステムを導入しているそうなんです。例えば職員が子どもから殴られたら、一人ではなく全員で対処する。そうすることで負担を減らして、離職率を下げようとしているんですよね。 施設に来る子どもの多くに虐待経験があり、彼らにとってまず必要な治療は「当たり前の生活」なのだそうです。戦時中の子どもに薬だけをポイと渡しても意味がないように、何よりも安心して生きられる環境がなければ傷も癒えようがありません。それだけ子どもたちの生活を支える施設職員の責任は大きいのだと思います。 一方で、慕っていた職員が辞めてしまうと、子どもは裏切られた気持ちになってしまうことも多いそう。難しい連鎖ですよね。
退所後の孤独に寄り添う支援の必要性を感じた
――児童養護施設を取材する中で感じた課題はありますか? 有賀 子どもたちにとっての一番の苦しみは、18歳で施設を退所しないといけないことだと感じました。児童養護施設にいた頃が幸せだった分、退所した後に自分の帰る場所がなくなった、と感じる子は多いんですよね。施設へ電話をかけても、「今は忙しいから」と断られて、捨てられた気分になる。「それから毎日死にたいと思って生きてきた」と言う話を聞きました。 実は、退所後のアフターケアは児童福祉法で義務付けられているんです。けれど具体的な内容は決まっていない。中には自立支援コーディネーターという専門職が配置されている施設もありますが、現場のマンパワーは圧倒的に足りません。施設ごとの差も大きいと感じます。 クリスマスシーズンになると「児童養護施設にプレゼントを贈ろう」という企画が世間では立ち上がりますよね。とても素敵だと思いますけど、退所後の居場所作りにも目を向けてほしいと思う部分があるようです。 ――『零れるよるに』では3巻以降、退所後の話に移っていきますね。 有賀 そうなんです。描いているうちに「メインは退所後の話になるのかな」と思い始めてきました。経済的な部分も問題になりますし、親を頼れないですから。 ――施設にいた人同士の横のつながりで、支え合うこともできないのでしょうか。 有賀 そうした活動がありますけど、地方だと難しい部分もありそうです。金銭的事情が都心部とは異なるし、施設によって考え方も違いますから。どの施設へ行くかは、運みたいなところもあるので。 一般社団法人Masterpiece(マスターピース)の菊池まりかさんは、児童養護施設にいる高校3年生にお金の管理の仕方などを教える活動をしていました。そういう活動があると施設を出た後も、誰かを頼ることができるんです。今は受け入れられる子どもの人数が限られていますけど、そういうケアが広がれば子どもの不安も薄れるのではないでしょうか。 有賀リエ(あるが・りえ) 長野県出身。読切漫画『天体観測』で「Kissゴールド賞」を受賞し、デビュー。初連載は、天文サークルに所属する大学生の恋を描いた『オールトの雲から』(講談社)。『パーフェクトワールド』(同)は車いす生活を送る男性との恋愛を描き、話題に。累計200万部を突破し、第43回講談社漫画賞少女部門を受賞した。ほかに性暴力の加害者・被害者の子ども同士が惹かれ合う『有賀リエ連作集 工場夜景』(同)がある。
ゆきどっぐ