増えすぎた炎上に慣れてしまわないためにはどうすればいい? 話題のミステリ小説から見えてくる現代社会のありかた
4月24日に発売された『蠟燭は燃えているか』(著 : 桃野雑派)。 『老虎残夢』で第67回江戸川乱歩賞を受賞し、受賞第一作『星くずの殺人』が重版に次ぐ重版を成し遂げた、いま最も注目されている著者の最新作を、気鋭の書評家はどう読み解くのか? 今回はあわいゆきさんによる書評を紹介します。 【画像】乱歩賞作家が送る最注目のミステリ小説 ---------- 桃野雑派『蠟燭は燃えているか』 宇宙ホテルでの連続殺人事件から無事に帰還した京都の女子高生真田周は、大気圏突入時、行方不明の友人へ向けて音楽配信をしたことで「人が死んだのに不謹慎だ」と、SNSで炎上してしまう。まるで事件の加害者かのような扱いを受け、迷惑系動画配信者が現れるなど、日常の通学すら困難になっていく。ある日、地球帰還時のアーカイブ動画に不穏なコメントが書き込まれた。 「まずは金閣寺を燃やす」 半信半疑の周の目に映ったのは、予告通り黄金色に輝きながら燃え落ちる金閣だった。 その場には、行方不明の友人・瞳子の姿。あの子がこの炎上を引き起こしたのか? 哀しみの劫火が、京都を襲う。 ----------
現代の「燃える」金閣寺
金閣寺放火事件。戦後間もない一九五〇年に発生し、金閣寺を全焼させたこの事件は、当時の世の中に大きな衝撃をもたらしました。三島由紀夫『金閣寺』や水上勉『五番町夕霧楼』など、この事件に着想を受けて創作された作品も数知れません。 しかし時は令和――毎日ありとあらゆる「炎上」が世間をにぎわせ、「また起きたのか」と呆れられながら、おもちゃのように消費されていくようになりました。おそろしい炎上が日常茶飯事となってしまうほどに、炎上は増えすぎたのです。だとすれば、はたしていまの世の中で金閣寺が燃えて、当時ほどの混乱が発生するのでしょうか? 現代を舞台にした桃野雑派さんの『蠟燭は燃えているか』では、まず金閣寺が燃えます。しかし京都の観光客が減る様子はありません。そのため金閣寺では物足りず、やがて銀閣寺や京都タワーまでもが標的となり、連続放火事件として京都全体を炎上の渦に巻き込んでいきます。スケールが大きいこの事件に立ち向かっていくのは、女子高校生の真田周です。 彼女は桃野さんの前作、『星くずの殺人』にも登場しています。宇宙旅行中に発生した殺人事件を描くこの作品では主人公の男性に協力し、笑顔で意地悪や皮肉を言ってのけて周囲を言い負かしていく、痛快な人物として大きな印象を残していました。「京女」でありながらもそのラベリングを鮮やかに跳ね除けていく彼女は今回のミステリで主人公として抜擢され、さらなる輝きを放ちます。 周は宇宙旅行からの帰還中、行方不明になっている友人の木之下瞳子に向けて、自らの歌を生配信しました。しかし「人間が死んでいるのに不謹慎だ」と炎上してしまい、彼女の動画チャンネルには誹謗中傷のコメントが殺到してしまうのです。加害者のような扱いをされて疲弊していたところに、「まずは金閣寺を燃やす」と不審なコメントまで届きます。金閣寺まで赴いた周が目撃したのは、燃え落ちる金閣寺と、行方不明になっていた瞳子のすがたでした。それを機に、周の動画チャンネルには放火予告のコメントが次々届くようになります。