医療者に「包括的中絶教育」を WHO基準の質の高い中絶ケア実現へ
2022年3月に世界保健機関(WHO)が質の高い人工妊娠中絶ケアのためのガイドラインを発表し、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖の健康と権利)への関心は世界中で高まっている。だが日本には今も堕胎罪が残り、中絶には配偶者やパートナーの同意が必要など、中絶が女性の権利として認められていない。 英国オープン大学社会政策教授のレスリー・ホガート氏は「WHOのガイダンスに、配偶者やパートナーの同意という項目はない。日本はいまだに中絶の規制が多い」と指摘する。これは中絶に関する研究に取り組む静岡大学人文社会科学部の白井千晶教授が24年1月8日に開催したシンポジウム「医療者への包括的中絶教育と中絶研究の役割」での発言だ。 世界の潮流は経口中絶薬による中絶だが、日本では手術が圧倒的に多い。昨年5月に初めて経口中絶薬が承認されたものの、入院可能な医療機関でしか服用できない、費用が高いなど課題が多く、必要な人がすぐに使用できる状況になっていないのが現状だ。 ホガート氏はここ10年の研究結果として、「高所得国のほとんどの国で薬による中絶が50%以上を占め、増加傾向にある。また、低・中所得国における中絶薬の成功率は95%。副作用等も『我慢できる範囲』が87%で、95%が薬による中絶に『満足』と回答している」と明らかにした。もちろん「痛み止めなどの準備をしっかりしておくことが大切」とも強調する。 20年からのコロナ禍で、英国では多くの女性が自宅で薬による中絶を安全に行なっているという。ホガート氏は薬による中絶をした女性たちにインタビューを実施し、そこから見えてきたこととして「中絶の経験を“改善する”には“社会的つながり”があることが重要」だと語る。「社会的つながりとは、一つは医療従事者から大切にされているという感覚や信頼関係、もう一つは住み慣れた自宅で家族がそばにいるという安心できる環境のこと。中絶をする時、医療従事者からの強固なサポートや批判的でないつながりはとても重要。妊娠初期の薬による中絶は安全で信頼でき、どこでも利用できるべきだ。女性たちは薬をふくめたさまざまな方法を選べることが大事」だと強調した。