医療者に「包括的中絶教育」を WHO基準の質の高い中絶ケア実現へ
体験者がつながる意義
氏の指摘の通り、医療従事者からのサポートは特に重要で、中絶への根強い偏見をなくすためには医学生の中絶教育が必要であることが英国など世界各国の取り組みにより明らかになっている。 ロンドン大学医学部准臨床教授で産婦人科医のジェイン・カバナ氏は、ロンドン大学で実際に行なっている包括的中絶教育について紹介。女性が中絶を求めている時や、中絶に関して困難や合併症がある時に何をしたらよいか、臨床や法律、倫理などの面から実践教育を行なっているという。 「特に大切にしているのは、中絶を提供している現役医師や、中絶経験のある女性をゲストスピーカーとして招き話を聞くこと。リアルな話に触れ、たくさんの質問をすることで学生は患者の尊厳を守るケアについて学んでいく」と効果を話す。また、「学生には信条を理由に中絶の医療行為に関わらないという選択肢もあるが、その場合でも中絶を求める人に対して自分が何をしたらいいか知っておく必要はある。医学生の時から中絶教育に触れることで、実際に医師になった時に質の高い中絶ケアを行なうことができ、偏見の軽減も期待できる」と説明した。 また、白井教授らは、中絶について女性が経験を語ったり共有したりすることでも差別や偏見による不当な扱いを低減できると考え、22年5月、人工妊娠中絶の語りサイト「My Body My Life Japan」を開設。これは英国の「My Body My Life」の日本版で、英国女性の中絶体験の翻訳を読むことができるほか、自分の経験の投稿も可能だ。 前出のホガート氏は「女性は他の中絶した女性がどんな経験をしたかをとても知りたがっている。不安や恐怖がある時、他の人の体験談の情報があれば安心できる。日本でもこうした女性の体験の調査をし、女性のニーズに応えるべきだ。それが女性を尊重するということではないか」と訴えた。
神原里佳・ライター