【連載】会社員が自転車で南極点へ4 空の上「息苦しい程の後悔」
セスナ機のプロペラが回りはじめた
バラバラバラバラ・・・セスナ機のプロペラが大きな音を立てて、回りはじめた。風圧で飛行機が徐々に動き出す。ゆっくりと旋回すると、目の前には真っ白な雪原が広がった。そこを機体は行きよい良く滑り出し、やがて、宙に浮いた。 空から見下ろせば、南極横断山脈が青々とした岩肌をのぞかせている。つい、先月まで、どうやってこの山脈を自転車で超えようか、僕は衛星写真と格闘していた。 しかし、僕は自力で走りだすことを選ばなかった。この山々を超えることは永遠にない。暖房のきいた飛行機から、他人事のように見下ろすに留まっているのだ。
これで良かったのか? 僕は静かな罪悪感を覚えた
自分で選んだこととはいえ、ユニオングレーシャーからの1000キロメートルを諦め、手前までフライトすることに、僕は静かな罪悪感を覚えた。 会社員という立場が僕に課した「制約」は、存分に旅行がしたい子どもの自分にとって、胸をキリキリと締め付ける程のものだった。 「これで良かったのか?」 答えはでないままだった。 ■大島義史(おおしま・よしふみ)1984年広島県生まれ。学生時代から自転車の旅に魅せられ、社会人になった後も有給休暇を取って自転車で世界を駆け巡る。長年にわたり会社や家族と話し合い、2015年12月に有給休暇を取って自転車で南極点へ行く旅に挑み、2016年1月に南極点へ到達を果たす。同月帰国後は間もなく職場へ復帰した。神戸市在住の会社員。インタビューでは「僕は冒険家じゃない、サラリーマンですから」と答えている。