好きなアイドルやアニメのキャラクターなどを応援する「推し活」。その波が、農産物にも押し寄せている。アイドルのイメージカラーに合わせて花を飾った「フラスタ」（フラワースタンド）や、動物園や水族館の「推し動物」に農産物を贈るサービスなど、農産物の消費拡大も後押しする市場になりつつある。 【図解】動物の推し活サービス「三方良し」の仕組み 　アニメやアイドルなど特定分野の愛好家を指す「オタク」文化の一般化によって「推し活」市場は拡大している。民間調査会社の矢野経済研究所によると、アニメなど主要14分野を合わせた2023年のオタク市場規模は推計8000億円に上る。経済効果は食品や日用品など、農産物が関わる世界にも広がる。

応援団が25万円のベンチ型

アイドルが座って撮影ができる、「連結」と呼ばれる大型のフラスタ（NANASフラスタ提供）

　勢いを見せるのが花きだ。アイドルなどの推し活では、イメージカラーに合う「フラスタ」を、コンサートなどのイベント時に贈るのが定番。「推し」への思いが、花の色や種類、大きさなどに細かく反映される。 　アイドル向けのフラスタを年間2500本以上生産する「NANASフラスタ」（東京都港区）によると、1本当たり5万～10万円、アイドルが座るベンチを設置した大型のフラスタでは15万～25万円ほど。ファンがお金を出し合い、応援団として発注する場合が多いという。 　同店では、縦2メートル×横1・2メートル程度の大きさで約100本の切り花を使う。品種はトルコギキョウ、バラ、アルストロメリア、カーネーション、ガーベラ、カスミソウなどが定番。華やかな見た目を再現するため、赤やピンク、黄色、青などの原色で、大きい花が適しているという。 　松下奈奈店長によると、フラスタは「推しに思いを伝える必須アイテム」。客層は20代までの男女が多数を占める。「若者こそ花に関心を持ち、購入している」と話す。 　イベントごとに発注があるため、季節需要の偏りが少なく、生産者にとっては通年供給を支える市場と言えそうだ。

推し動物の食事動画で返礼

動物の推し活サービス「Hello！OHANA」の利用者が贈ったミカンを食べるオナガザル科のブラッザグエノン（OHANA提供）

　「推し」の対象は、アイドルやアニメのキャラクターなどにとどまらない。 　「推し動物」の食事に農産物を贈るサービス「Hello！　OHANA」は、サイト上で見つけたお気に入りの動物に農産物を贈ると、動物がそれを食べている動画が届く。20～50代の女性を中心に、毎月約100人が利用する。 　注文すると、推し動物のいる動物園や水族館に生産者が農産物を出荷する。規格外品を活用し、1カ月当たり最大でミカン250キロ、リンゴ400キロなどを出荷。生産者の所得になり、動物園や水族館にとっては餌代の軽減につながる。 　サービスは、動画の内容などに応じて料金を設定しており、1カ月間の1人当たり平均利用額は4000円に上る。 　運営会社「OHANA」（東京都練馬区）の棚木悠代表取締役によると、推し活から出荷者の農家に興味を持ち、農産物などを直接購入する利用者も出てきたという。 　出荷者で、愛媛県八幡浜市で5・5ヘクタールのかんきつ類を育てる宮本泰邦さん（48）は「ミカンの新しい需要や価値を生み出してくれている」と評価する。