昭和の「俺たち」が夢を見ていた時代…ホンダ「シビック」の「RS」が「レーシング・スポーツ」ではなくて「ロード・セーリング」だったのもロマンです【カタログは語る】
現代でも十分に軽快な気持よさが味わえる性能を誇る
そこで1200シリーズに追加されたこのRSでは、専用エンジンの搭載がまず特徴だった。水冷直列4気筒OHCで1169ccの排気量をもち、CV型ツインキャブレターにより最適な混合気と敏捷なアクセルレスポンスを実現。またカタログでも紹介されているが、クロスフロー式バルブ配列、半球型シリンダーヘッド、ガスの流動抵抗の少ない吸・排気ポートなどにより優れた燃焼効率、余裕を引き出した。 スペックは最高出力76ps/6000rpm、最大トルク10.3kgmだったが、フラットなトルク特性で中・低速での粘り強さも発揮。カタログには0-200mが10.8秒、0-60km/h加速が3.8秒(どちらも2名乗車時)とあるが、高速道路への流入や追い越しなどでもいかんなく性能を発揮した。 ちなみにトランスミッションの各々のギヤ比は、主要諸元表には1速:3.000、2速:1.789、3速:1.182、4速:0.846、5速:0.714とある。 ごく短時間だったが、少し前に筆者はこのRSのレストア車をドライブする機会に恵まれたが、5速MTと695kg(3ドアは705kg)の軽量ボディに安定感、接地感のいい4輪ストラットサスペンションなどが奏功して、現代でも十分に軽快な気持よさが味わえるクルマだったことを取材で実感した。
室内にはスポーティな意匠が施されていた
そういえばこの初代シビックRSでは、内外観のさり気ない専用装備もベース車とはひと味違うセンスを際立たせていた。外観ではブラック塗装のホイール(4.5インチリム)とホイールリング、キャンディレッドのセンターホイールキャップ、155SR13ラジアルタイヤ、砲弾型フェンダーミラーなどがそう。2個の後退灯、バンパーに備えたオーバーライダー、それとフロントグリルに装着されたRSの赤バッジももちろんRSの証だった。 室内ではスポーティな意匠が施されたバケットタイプのフロントシートに目がいくほか、ステアリングホイール、シフトノブ(当時のカタログでの呼称は「チェンジレバーノブ」)には純木製が奢られた。A/B/Cペダルの横にはフットレストも備えられた。カタログに載せられたインパネの大きな切り抜き写真は、当時、このクルマのオーナーになることを夢見た多くのマニアが、自分がこのRSを駆るシーンを思い描きながら、きっと穴があくほど眺めていたに違いない。なおボディタイプは、上ヒンジで開くトランクリッド式の2ドアとハッチバック付きの3ドアがあり、前述のとおり2ドアのほうが車重は10kg軽かった。 なおそんな初代シビックRSだったが、登場翌年の1975年8月、当時の昭和51年排出ガス規制適合の新CVCCエンジン(1200cc/1500cc)の発売により、わずか10カ月という短命のうちにカタログから消えた。入れ替わりにこの時に登場したのが、パレルモグリーンのクルマのカタログ写真をご紹介している1500cc・3ドアの「SLR」だった。 基本的に1200時代のRSの出で立ちが引き継がれ、内装もシート表皮のメイン部分がチェック柄になるなどしていており、エンジンスペックも最高出力75ps/5500rpm、最大トルク11.1kgm/3000rpmと記されている。ただし車重は765kgと3ドア同士でも1200時代からは60kg増えたクルマとなっていた。
島崎 七生人(SHIMAZAKI Naoto)