昆虫の専門家に教えてもらおう! 虫たちとの上手な付き合い方【ナナフシ編】
アウトドアでは、必然的に昆虫と出会う機会が多くなります。昆虫少年や虫愛ずる姫君じゃなくても、昆虫って観察してみると、意外とかわいらしく見えてくるものです。 【写真】木の枝に擬態したナナフシなどを見る(全7枚) このシリーズではそんな、ちょっと気になる虫たちについて、昆虫の専門家にお話をお聞きしていきます。 今回は、ユニークな見た目と、不思議な生態が面白い「ナナフシ」について、箕面公園昆虫館の中峰館長に教えていただきました。
世界最長の昆虫は「歩く棒」!
「ギネス」によると、「世界一長い昆虫」は、大英博物館蔵のボルネオ産オオナナフシで、体長23.8センチだそう。中国南部で全長60センチ超えのナナフシが発見されたというニュースもありました。 ナナフシは、ナナフシ目に属する昆虫で、漢字で書くと「七節」。英語名は「Stick insect」で、まさに「歩く棒」のような昆虫です。熱帯から温帯にかけて広く分布しており、日本にもいろいろなナナフシがいます。
ナナフシというナナフシはいない
「身近によく見るナナフシは、〝ナナフシモドキ〟か〝エダナナフシ〟。ほかにも、〝トゲナナフシ〟、〝コブナナフシ〟など、いろいろな種がいるんですが、じつは〝ナナフシ〟という名前のナナフシはいないんです」と中峰館長。 そして、この昆虫の最大の特徴は、そこらにわりといるのに、気づいていない人が多いこと。ナナフシは擬態が得意で、パッと見ても「枝にしか見えない」からです。 「トゲナナフシは箕面の森でもよく見かけますよ。遊歩道の脇の手すりの上を歩いていることもあります。冬の初め頃なら、山道の脇の溝のようなところにかたまっていたりもします」と、中峰館長。 「ナナフシは擬態の達人なので、本当に木の枝にそっくり。見慣れてくると見つけやすくなりますよ」。 初心者は、まずは昆虫館などで生体展示されているナナフシを観察してみるのがいいかもしれません。
オスのナナフシは超レア!
「エダナナフシやコブナナフシは雌雄がいるんですが、よく見かけるナナフシモドキは、ほぼ全てメスなんです。ナナフシモドキのオスはとても珍しくて、たまに発見されると新聞に載るほど。他にはトゲナナフシもほとんどメスしか見つかりません。これらのナナフシはメスだけで単為生殖します」(中峰館長)。 また、ナナフシの卵はちょっと変わっていて、植物の種にそっくり。卵のときから擬態の名手なんですね。 枝の上から地面にぽろぽろと産み落とすと、アリがタネと間違えて運んでいくこともあるそうです。 ところで昨秋、「飛べない昆虫・ナナフシの長距離分散の痕跡を遺伝解析で発見」というニュースが流れました。神戸大学などの研究チームが発表したもので、ナナフシモドキの全国的な遺伝構造を調査した結果、遺伝子型の分布パターンから、鳥による長距離分散の可能性が高いという研究結果を得たそうです(※)。 昆虫の擬態は、捕食者にみつかりにくいように進化したものですが、実際のところ、ナナフシはヒヨドリによく食べられているそうです。 ナナフシの卵は殻が非常に丈夫で、鳥の消化管を通っても、ある程度は消化されずに排泄されるのだとか。 ナナフシは昆虫でありながら飛べない種類も多く、移動能力は低い昆虫なのですが、もしかすると自分の命と引き換えに、子孫たちを遠くに運んでもらっているのかも? いろいろと謎の多い昆虫ですが、昆虫ファンには根強い人気があります。まずは昆虫館を訪れて、研究してみませんか。
根岸真理