中村米吉、結婚という人生の節目を迎え、これまで以上に真摯に芸と向き合う決意【歌舞伎沼への誘い】
「お梶は、去年、『研の會』で勤めたときに(中村)雀右衛門のおじさんに教えていただいたので、それをしっかりと思い出しつつ、今回は上方の愛之助兄さんとなので、(片岡)秀太郎のおじさまの昔の映像などを拝見しながら勉強しているところです」。団七役の愛之助さんとのコンビも楽しみです!
米吉 お二人、本当に大丈夫なの?? 他の方たちの取材、ちゃんとできてます!? 心配だわ~(笑)。 まあ、せっかく取材に来てくれたからお話ししましょうかね(笑)。『夏祭』の思い出というと、12歳くらいのときですね。当時は、亡くなった中村吉右衛門のおじさまが毎年5月に新橋演舞場で公演をなさっていたんです。 『鬼平犯科帳』を歌舞伎として上演されたり、『四谷怪談』の伊右衛門を珍しくなさったり、吉右衛門のおじさまが主軸としての公演でも、9月の歌舞伎座の秀山祭とは、また違った趣きの公演だったんですけれど、最初の年に『夏祭』を出されたことがあったんです。うちの父(中村歌六さん)も義平次を勤めていて、僕も同じ月に『京鹿子娘道成寺』の所化に出ていました。 そのとき、(中村)福助兄さんのお辰を拝見して、すごくかっこいい役だなぁと思ったのが最初の記憶で。女方で最初に関心を持ったのがお辰だったんですね……って、いくらお辰の話をしても、今回はやらないんだけど(笑)。 部長 そうでしたね(笑)。でも、今回、米吉さんが演じるお梶も大事なお役ですよね。読者のために、『夏祭浪花鑑』のストーリーをちょっと説明すると、舞台は大坂の下町です。ケンカっ早いけれど、粋でかっこいい団七と一寸徳兵衛。男の友情で結ばれた二人をはじめ、彼らの女房たちの義理と人情とプライドが交錯する泥臭い物語です。クライマックスの夏祭りの夜の殺しの場面はすごく緊迫感があって、大坂の夏の熱気が感じられる舞台ですよね。 米吉 そうですね。団七と徳兵衛は、ともに主役級の役者さんが出るのが恒例で、それこそ、吉右衛門のおじさまが団七をなさったときは、(片岡)仁左衛門のおじさまが一寸徳兵衛をなさったり、今回も(片岡)愛之助兄さんが団七で、(尾上)菊之助さんが徳兵衛を勤められます。その二人の間に割って入ってケンカを止めるのが団七の女房のお梶なんですね。 お梶はもともと武家屋敷で奉公をしていた女なので美しいだけではない。立女方(座頭の相手役を勤めるその座組で最高位の女方)格の俳優が演じることの多いお役でもあるので、それ相応のものが必要です。さらに劇場が歌舞伎座ですから、やはり押し出しみたいなものがないとできないと思います。