【子どものいない人生】42歳からの不妊治療で2000万円出費した女性の葛藤「無駄とわかっていても払い続ける方が楽だった」
● 職場には秘密で治療を続ける 主治医からは、42歳という年齢から、タイミング療法(排卵日を予測し性交のタイミングを合わせる治療)や人工授精(採取した精液から運動している精子を選び、排卵の時期にあわせてチューブで子宮内に注入する)は飛ばして、即、体外受精を勧められた。体外受精とは、膣から卵巣に針を刺して卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させて後日受精卵を子宮内に返す治療だ。 治療を受けたいと夫に話すと「ああ、いいよ」と二つ返事。夫はいつもかおりさんの希望することに反対することはない。 「本心はよく分かりませんが、たぶん夫も子どもが欲しかったんだと思います。お金も共通経費の中から出し、検査や通院などが必要な時にも拒否することなく淡々と対応してくれました」 フルタイム勤務しながら治療できるよう、開院時間が長く土日の休みもない病院を選んだ。早朝の電車に乗り、開院前に並んで順番待ちをし、受診後急いで出勤した。 その日の治療が終わると、次は2日後、次は1週間後……と言われる。その都度、仕事の折り合いをつけた。休みを取るためにうそをついたり、職場の人と約束した旅行をドタキャンしたこともある。「うそをつくのが本当につらかった」が、言えなかった理由についてかおりさんはこう話す。 「オープンにはしづらかったです。42歳だったので、その年で?とか、そんな治療をしているの?と思われるのが怖くて」
● 次こそは…やめられなくなった 台湾での「卵子提供」を知る ホルモン剤に慣れないうちは吐き気を催すこともあったが、体のきつさよりも仕事の調整がしんどかったと振り返る。 48歳になるまでの6年間、治療を続けた。最初のうちは「遅いスタートだからできなくても仕方ない」と軽く思っていたが、やればやるほど「次こそは」と、やめられなくなった。この6年間で採卵は49回、受精卵を子宮に戻す胚移植は10回受けた。 排卵して卵子が採れ、受精し受精卵が凍結できる状態(胚盤胞)にならない月は、毎月5万~6万円の治療費が、採卵し卵子が採れ、受精し受精卵が胚盤胞になり無事に凍結できた月は数十万円がかかったが、共働きだったため、支払えない額ではなかった。 治療が成功しないまま、19年、48歳の秋にインターネット検索で「卵子提供」という手段があることを知る。第三者のドナーの卵子と夫の精子を使ってできた受精卵を自らの子宮に移して出産する方法だ。妻の年齢が高くても、卵子が若いために出産に至りやすいとされる。 ちょうど台湾のクリニックの説明会が国内で行われており、参加。49歳を目前にし、もう駄目かもしれないと思っていたタイミングだったため「台湾なら近い!」と飛びついた。