【アメリカから見たTPP(9)最終回】TPPは平和をもたらすか?
米プリンストン大で行われた、クリスティーナ・デイビス教授へのインタビュー(Matthew Kolasa撮影)
昨年10月に日米を含む12カ国が合意に達した環太平洋経済連携協定(TPP)には中国が含まれていない。TPPが貿易を促進し、将来中国も加入するようなことがあれば、TPPは地域に安定と平和をもたらすのだろうか。米プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン国際公共政策大学院教授で、日米関係と国際貿易の専門家のクリスティーナ・デイビス教授に聞いた。
貿易を通じた成長と安定
TPPがもたらすもう一つの可能性は、貿易を通じた平和だ。デイビス教授は「互いに貿易を行う国は、より多くの共通の利害関係を持つことになります」と説明する。 「より強い経済力があれば、より大きな取引を行うことに集中することができるし、より強固な民主的なプロセスを経る可能性も高くなります。よって、TPPに参加する東南アジアの国々は経済成長への力強い道のりを期待でき、TPPがこれらの国々の民主主義を強化し、隣国との関係を改善する効果が期待できます。これらはこの合意の重要な貢献と言えるでしょう」
「中国はTPPに参加する利益がある」
一方でデイビス教授は、日米政府が国内でTPPへの支持を取り付けるために、国民に対して「 TPPは中国対策だ」と説明していることが、中国の態度を硬化させる可能性があると懸念する。 「私の唯一の心配は、『TPPが中国を標的にしたものだ』というレトリックによって、中国国内で恐怖が生まれることです。もし中国が、拡大する自国の力に対して他国が経済や安全保障などさまざまな分野で均衡を取ろうとしていると感じたら、中国はより防御的になるかもしれません」
ひとつの問題は、外交的な公式発表と、政治家が国民に伝えていることの間に大きな相違があることだ。デイビス教授はこう話す。「この合意を国内で通過させるために使われている地政学なレトリックを、中国があまり深刻に受け止めないよう望んでいます。オバマ大統領は経済成長を達成したい、安倍首相は日本経済を再活性化したい、ということが本音なのです。TPPは主に経済分野の合意であり、中国に対して開かれた状態は維持されるべきですし、そうすれば中国もまた協定への参加を検討することが自国の利益になるでしょう」