<映画評>銃殺された黒人青年の最後の1日を描く『フルートベール駅で』
道を踏み外し更生した人間よりも、一度も道を踏み外さない人間のほうがよっぽど立派だーー。たびたび議論される話だ。主人公の黒人青年オスカー・グラントは、過去、道を踏み外したことがある。「ムショはもうイヤだ」。そう話し、更生しようとする姿が映画の中では描かれている。おそらくオスカーは立派な人間ではなかっただろう。それでも、最愛の娘や恋人のため、自分を育ててくれた母のために、自立しようと精一杯の努力をする。その健気な姿に、次第に感情移入していく。 実際にあった事件の映画化。2009年の元日、アメリカ・サンフランシスコのフルートベール駅。新年の祝賀ムードを一変させた悲惨な事件。22歳の黒人青年が、白人警官によって銃殺されてしまう。殺される理由のない1人の市民、愛する人も幼い娘もいる青年が事件の被害者になってしまう。 作品の冒頭には、実際にフルートベール駅で乗客が撮影した映像が映し出される。あまりにショッキングな映像に緊張感が走る。「市民を守り、市民に仕えるだろ!」。居合わせた乗客が警官の行動に疑念を抱き、叫ぶ。それでも白人警官たちは、オスカーを含む黒人青年たちを拘束し、そして無抵抗の青年の将来を奪ってしまう。 結果論ではあるが、オスカーが事件に巻き込まれてしまった理由の中には、彼の素直さ、優しさ、家族を裏切らりたくない、という前向きな思いが、逆にアダとなってしまったことも挙げられる。それゆえに、やりきれない思いに苛まれてしまう。無念さが強く残る作品だが、彼の前向きに生きようとした姿は、ほんの少しだが救いになってくれている。 2013年のサンダンス映画祭で作品賞と観客賞を受賞。公開当初、わずか7館だった劇場は、最終的に1063館まで拡大したという話題作。 ■予告編 ■特別映像 ■公開情報 『フルートベール駅で』 2014年3月21日(金) 全国公開 クロックスワークス (c)2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.