「AEDはコンビニに!」3人死傷した陸自射撃場の杜撰な救急体制 生存隊員は「左脚を切断」していた
3人死傷銃撃事件時の救命処置
昨年6月、隊員3人が自動小銃で撃たれて死傷した事件が起きた岐阜市の日野基本射撃場での訓練について陸上自衛隊は5月22日から射撃訓練を再開することを明らかにした。 ライフル弾が大腿部を命中すると、どうなってしまうのか 昨年6月の事件は、岐阜市内にある陸上自衛隊の日野基本射撃場で18歳の自衛官候補生が3人の自衛隊員に小銃で発砲。守山駐屯地に所属する当時52歳のA氏、25歳のB氏の2人の陸曹が亡くなり、当時25歳のC氏が重傷を負った。岐阜地検は2月にこの元自衛官「渡辺直杜被告」を強盗殺人等の罪で起訴し、事件の重大性を鑑み、実名を公表した。 一命を取り留めたC氏は、左脚を切断する重傷を負っていたことが医療従事者の証言で明らかになった。元自衛隊衛生幹部はこう明かす。 「岐阜市の3人死傷銃撃事件で重傷を負った3等陸曹は左脚切断となったようです。自衛隊医療従事者間に左大腿部から切断となった症例として共有されましたので、公表はまだのようですが特定できてしまいました」 陸曹の命は救えたものの、他の隊員についても命を救えた可能性があったことが取材で明らかになった。本来、備えておかなければいけない救命救急用の装備品が現場に準備されていなかったのだ。 重傷を負った隊員に対して、自衛隊は生涯にわたっての生活保障くらいは考えているのだろうか?この情報の通りであれば、義足が必要となる。義足はその患者に適合するまで何度もメンテナンスが必要だという。そんな負担を被害者に負わせるのだろうか?3人死傷銃撃事件では自衛隊側の救命体制への問題は明らかだ。この後、国がどのような保障を提示するのかには注目したい。 さて、事件当時を振り返ってみよう。 6月14日、事件発生時に「AEDを探せ、コンビニに行けばある!」と悲痛な隊員の叫び声を近隣住民が聞いていた。朝日新聞の紙面には、負傷者を射撃場から救急車へ運んだ血液の跡がのこるベンチや的用ベニヤ板の上空からの写真があった。射撃場には担架の用意もなく、止血も十分に行われなかったことがこれで一目瞭然だ。 射撃場にもし、AEDや止血のための衛生材料があれば一命をとりとめることができたのではないか。自衛隊には病院もあり、医師免許や看護師免許をもった隊員がいる。止血や救命のための訓練をうけた衛生隊員も在職しているし、救急車もある。なぜ、救命システムのすべてを備えているはずの自衛隊の事件で、担架もAEDもなかったのか?事件発生から2人の陸曹が亡くなるまでの時系列を追うと、以下のようになる。 ●9:08頃:事件発生。 ●9:40頃:病院搬送開始。銃弾を2発うけたA氏(当時52歳)は意識不明。B氏(当時25歳)は意識あり。 ●10:45頃:病院到着直後にA氏の死亡確認。 ●11:23頃:B氏の死亡確認。 事件発生から病院到着まで2時間近くかかっている。事前に自衛隊救急車が用意されていれば、もっと早く病院に搬送できたはずだ。さらに言えば、自衛隊は一度に担架搬送4人または座送8人を搬送できる「1トン半救急車」や「野外手術システム」を持っている。「1トン半救急車」は、レンジャー訓練では使用しているのに、事件があった日野基本射撃場にはなかった。 また「野外手術システム」を訓練時にも有効活用し、そこに医師や看護師が乗り込み、待機していれば、その場で手術も可能だったはずだ。亡くなった陸曹のB氏は事件発生から32分間は意識があり、命が救えた可能性があった。なぜ、装備品も医療スタッフもいるのに、万が一に備えようとしなかったのか。どんなときでも応急処置ができる自衛隊でなければ隊員は安心して訓練に励むこともできないだろう。