朝ドラ『虎に翼』施設への肉の差し入れは史実だった! 裁判官らが自腹をきっていた非行少年らへの支援の実態とは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、最終週「虎に翼」が放送中。寅子(演:伊藤沙莉)はかつて新潟で出会った少女・美佐江の娘である美雪(演:片岡凜/2役)と対峙し、かつて自分が出せなかった「なぜ人を殺してはいけないのか?」という問いへの答えを出す。美雪は一時施設で暮らすことになり、そこへ寅子が肉を差し入れたという内容の会話が出てきたが、これは寅子のモデルである三淵嘉子さんが実際に行っていたことだった。 ■裁判官が身銭をきっていた補導委託施設への支援 寅子のモデルである三淵嘉子さんは、昭和37年(1962)、48歳で東京家庭裁判所の少年部に所属することになった。ここで三淵さんは少年審判において教育的役割を重視し、真心を込めて家庭裁判所に送られてきた少年少女らと向き合っていた。 そもそも現行の少年法は、昭和23年(1947)に、GHQ指導のもとで制定されたものである。少年法は「犯罪者に刑罰を科す」のではなく「非行にはしる少年少女を保護し、再教育によって更生させる」ことが目的だった。警察・検察は少年事件について家庭裁判所に送致し、家庭裁判所では少年らを不処分にするか、刑事処分に相当するかを審判して、後者の場合は検察に引き渡した。 ドラマでは美雪が祖母と離れて施設で生活することになるが、これは「補導委託」というものにあたる。現在でも家庭裁判所が少年らの最終的な処分を決定するまでの間、民間のボランティアの家庭や施設で過ごす制度が存在する。 そして、当時三淵さんは、試験観察中の少年らの様子を度々見にいっていたらしい。よく同行していた同僚は、三淵さんが施設訪問のたびに駅前で大量の肉を買い込み、それを抱えていったと回想している。 当時の補導委託先は今以上に経済的に苦しく、ボランティア制度も整備されていない状況だった。そのため、施設としては子どもたちの最低限の食事を賄うので精一杯で、着替えや文房具などの生活用品も十分に用意することができないケースが多かったようである。かといって家庭裁判所側にそうした支援を行うための予算が名目上存在したわけではないので、三淵さんのように裁判官や調査官が自腹で食料品や生活用品を買って差し入れることもたびたびあったらしい。 三淵さんはイギリス留学の経験がある調査官から現地のボランティアや寄付の実態を聞き、時の東京家庭裁判所所長・内藤頼博氏にボランティア組織の設立について相談した。この内藤氏、言わずもがな『虎に翼』に登場する“ライアン”こと久藤頼安(演:沢村一樹)のモデルである。 そして、三淵さんや内藤氏らを中心として昭和41年(1966)に設立されたのが「少年友の会」だ。初期の会員として、三淵さんとともに女性初の弁護士となった久米愛さん、明治大学女子部の後輩・野田愛子さんらも名を連ねている。 この会は東京家庭裁判所の中に事務局を置き、会費や寄付金、裁判所内で開かれるバザーの収益金で日用品を購入し、補導委託先に配布していた。やがて、この活動は全国に広がっていき、活動内容の幅を広げながら今日に至っている。2024年現在、全国の各都道府県にある50の家庭裁判所に対応して50の少年友の会が存在し、約1万人のボランティア会員が少年らの更生・教育指導を支えている。 <参考> ■清永聡『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社) ■神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部