ロッキード事件の闇が晴れない日本政治の不幸(上)「総理の犯罪」の衝撃
40年前の7月27日、前代未聞の前首相逮捕に日本中が衝撃を受けた。逮捕は立花隆氏が書いた「田中金脈研究」と結び付けられ、「金権政治」批判が一斉に起きて、三木首相が政治資金規正法を改正し、「政治とカネ」が日本政治の最重要課題に浮上した。 しかしロッキード事件の3年後に「ダグラス・グラマン事件」が起こる。ロッキード事件を暴露したのはアメリカ上院の多国籍企業小委員会だが、こちらはアメリカの証券取引委員会が公表した。グラマン社のE2C早期警戒機の売り込みで商社日商岩井を通し岸信介、中曽根康弘、福田赳夫、松野頼三らに秘密資金が流れたと発表された。
時の総理を数の力で裏から支配するゆがんだ構造
ロッキード事件で田中を逮捕した検察はグラマン事件では日商岩井幹部だけを逮捕し、氏名が公表された政治家を逮捕しなかった。証拠不十分というのがその理由である。 私はロッキード事件発覚直後から児玉誉士夫を取材したが、注目していた政治家は中曽根康弘氏である。政治家の中で最も結びつきが強く、二人は同じ時期に同一人物を秘書にしていた。しかも中曽根氏は防衛庁長官経験者で対潜哨戒機の国産化を主張していた。ロッキード社が国産化をやめさせP3Cを買わせる工作の対象にすべき人物である。 一方、全日空のトライスターは導入が社内で決定済みで秘密工作など必要ないと言われていた。ところが検察は児玉の病気を理由にP3C疑惑には手を付けず、トライスター導入の口利き疑惑で田中を逮捕した。 検察に対し事件の捜査を強く求めていたのは三木首相である。政敵である田中の追い落としを狙っていると言われていた。そして検察を指揮する法務相は中曽根派の稲葉修氏で、中曽根氏は三木内閣を支える自民党幹事長の立場だった。 P3C疑惑に検察が手を付けて中曽根氏の名前が浮上すれば、三木内閣の屋台骨が揺らぐことになり、またP3Cの導入は米国政府の要求でもあったから、疑惑を突き詰めれば日米安保体制の根幹をも揺るがすことになる。