生活保護不支給問題「桐生市の闇が見えてきた」 専門家ら“カラ認定”や“ハンコの不正使用”などの検証を求める要望書を提出
9月20日、「桐生市生活保護違法事件全国調査団」は、群馬県桐生市で発覚した保護費の不支給問題について、さらなる調査・検証を求める要望書を市と第三者委員会に提出した。
昨年11月から「1日1000円のみ支給」等の問題が発覚
2023年11月以降、桐生市の生活保護行政において、以下の問題が発覚した。 ・利用者に対し生活保護費を1日1000円に分割して支給し、基準額の半額程度しか渡さない ・生活保護の決定後も、長期にわたり保護費を渡さない ・利用者の印鑑を約2000本保管し、本人の同意なく押印 ・職員が利用者に対し、どう喝などを行う 問題発覚を受けて、市に「生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」が設置される。委員会による複数回の会議を通じて、群馬県が実施した特別監査の報告や市の内部調査チームによる報告書が公開されてきた。 今年3月、生活保護問題に取り組む全国の研究者や法律家、支援団体関係者からなる「桐生市生活保護違法事件全国調査団」が結成。問題の徹底検証や再発防止を求め、市や県、厚生労働省などに申し入れと交渉を行ってきた。 今回の要望書は、第三者委員会による議論や公開された報告書をふまえて、さらなる調査を求めるもの。
「認印の不正使用」「仕送り金額の偽装」などの可能性を指摘
25日に行われた記者会見では、「生活保護問題対策全国会議」の事務局次長も務める社会福祉士の田川英信氏が、要望書に記載された4つのポイントについて説明した。 第1のポイントは「認印(みとめいん)の大量保管」。内部調査チームによる報告書では、保管認印の使用について「現金領収簿に押印されているか」という観点から調査されていた。しかし、桐生市では近隣他自治体に比べて保護申請の辞退・取下げの数が突出して多いことから、辞退届や取下届などの押印にも使用されていた可能性がある。 また、実体を伴わない仕送り収入が認定されていた実態も明らかになったことから、該当世帯の扶養届や収入申告書にも保管認印が使用されていた可能性もあるため、要望書ではこれらについて調査を行うことを求めた。 第2のポイントは「境界層却下」。桐生市では、多くの保護申請が、申請者の収入の水準は最低生活費の境界を上回るとして却下されていた。 その際、実際には収入の水準は境界を下回っており要保護であった申請者について、市が仕送り収入を偽装(カラ認定)し収入を水増しすることで境界を上回らせて、却下していた可能性が指摘されている。 具体的には、年金と親族からの仕送りを足した収入が境界を上回るとして却下された申請者が多くいた。その内訳には、仕送りの金額が「1万1826円」や「5887円」など端数となっている申請者も含まれている。 田川氏は「通常、仕送りは万円単位や千円単位で行うものである」として、金額が端数であることの不自然さを指摘。また、「カラ認定だとすれば犯罪的だ」と憤りを示した。要望書では、認定経緯の確認や、仕送りの実態について調査することを求めている。 第3のポイントは「施設入所による廃止」。それまで自宅などで生活していた保護利用者が介護保険施設などに入所した場合、保護基準の金額が変更され、保護給付が廃止される場合がある。例年、桐生市では、廃止件数に占める「施設入所」の割合が全国平均の5倍から10倍であった。 境界層却下の場合と同じく、施設入所による基準変更に伴う金額計算においても、不自然な端数が含まれている事例が多々あった。また、生活保護利用者には、不意の出費に備えて預貯金を蓄えることが認められており、通常、施設入所の際にも預貯金を理由にして廃止されることはない。しかし桐生市では、預貯金を理由に廃止する事例が多数あったことから、要望書は、対応が適正であったか否かを確認するよう求めている。 第4のポイントは「被保護人員数の急減」。桐生市では、2011年度から2022年度までの11年間で、市内の生活保護利用者数は半分以下になっている(1163人→547人)。とくに、「母子世帯」の利用者は26世帯から2世帯にまで激減した。 群馬県の特別監査報告は、市の不適切な運用(面接相談における申請権の侵害、実態に基づかない仕送り認定における却下など)が受給者数減少の一因になっていると指摘している。要望書では、組織体制や業務への取り組み姿勢なども含めた総合的な検証と自省を求めた。