「厳しく問うべきは小池百合子都知事なのに」──ライター武田砂鉄が都知事の“異様な能力”に警鐘を鳴らす
小池百合子の“異様な能力”とは
毎週金曜日に都庁で定例会見を開いており、記者クラブの面々が小池に質問をぶつける機会となっているが、当選後の7月12日、三選決定後、初となる会見での記者の追及は弱かった。その前週、つまり、選挙直前の5日の会見では記者とこんなやりとりがあった。 ──知事選の告示後、知事は連日、各地を行政視察されてこられまして、改めてどういった狙いで、また今、この時期にどうして多くの視察に行かれているのか、そのお考え、意義を教えてください 「現場視察というのは非常に有効です。政策で既に行っているものの確認、また、実際に行くことによって、更にそれに積み増していくことが何ができるのか、現場で担っている方々の声も聞こえるということで、非常にこの間も各地回らせていただきました。(後略)」 ──ありがとうございます。取材を進めていますと、今の時期に本当に必要な視察なのかどうかとか、あるいはその公務に名を借りて選挙活動をしているんじゃないかと見られかねないといった指摘も聞かれるんですけれども、それについてはどういうふうにお答えになりますか 「いや、視察に行くことについて何の問題もないと思っております。むしろもっともっと見ていくところはあるかと思っております。ありがとうございました」※註1 文字起こししたものを読むと、話が噛みかみ合っているようで噛み合っていない。こうやって、やりとりを空洞化させる。ズレを作って、質問が、自分の身体の奥に刺さらないようにする。このあたりが「説明せずに済ませる異様な能力」なのか。答えたくないことがたくさんあるからあまり前に出てこない、この状態って当選を決めたからといって許されるわけではないのに、なぜか1位に向けた厳しい報道が減っている。前に出てこないトップが、いつもの手口を駆使しながら、「説明せずに済ませる異様な能力」で色々と忘れさせようとしている。 ※註1小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和6年7月5日)より引用 武田砂鉄 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。 文・武田砂鉄 編集・神谷 晃(GQ)