韓国のGSOMIA破棄は「3年前に戻る」だけなのか?
明確ではないトランプ大統領の姿勢
今回の協定破棄は、米国にとっても問題です。ポンペオ米国務長官は「韓国側と話をしたが、韓国のGSOMIAに関する決断に失望している」と述べました。この「失望」とは外交の常識に照らして、かなり強い言葉です。これで米韓関係が壊れるようなことはないでしょうが、もし日本について同じようなことが言われれば、大騒ぎになるでしょう。 今回の決定に先立ち、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)やスティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は日韓を訪問して関係改善を促しましたが、韓国は思いとどまりませんでした。 韓国の決定を、米国、特に米軍として歓迎できないのは明らかでしょう。米国防総省のイーストバーン報道官は8月22日の声明で「米日韓が連帯し協力するとき、我々はより強くなり、北東アジアはより安全になる。秘密情報の共有は我々が共通の防衛政策と戦略を発展させるカギだ」と、米軍の立場を雄弁に語っていました。 もっとも、今回の破棄に関してトランプ大統領がどのような姿勢であったのかは、明確でありません。「トランプ政権は韓国にもっと強く働きかけることができたが、実際にはそうしなかった、特にトランプ大統領が関与しなかったので韓国は協定の破棄に踏み切った」とみる意見もあります。 米韓軍事演習が8月20日に終了し、これからトランプ大統領は米朝非核化協議の再開に力を入れることになるでしょう。またトランプ氏には、日本と韓国に駐留している米軍のあり方を見直そうという考えもあるようです。トランプ大統領が北東アジアの安全保障について今後どのような考えで臨むのか、これらを含め全体的に見ていく必要があります。
中国・北朝鮮としては喜ばしい状況
なお、日韓GSOMIAやTHAAD(高高度防衛システム)は日米韓の安全保障面での協力を強化するものであり、北朝鮮や中国はかねてから批判の対象にしてきました。それだけに、今回のGSOMIA破棄は中朝両国にとって有利になるものとみているでしょう。北東アジアにおける日米韓の安全保障協力の弱体化は、北朝鮮や中国をますます喜ばせることになるのも一つの現実です。 今後、中国と北朝鮮にロシアを加えた3国間の連帯がさらに強化されていけば、北東アジアにおけるパワーバランスにも影響が生じてくる恐れがあります。日米韓の3国はGSOMIA破棄問題を乗り越え、協力を強化していかなければなりません。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹