韓国のGSOMIA破棄は「3年前に戻る」だけなのか?
対立が深まる日韓関係において、また新たな火種が発生しました。韓国による「GSOMIA」破棄決定です。韓国とは3年前に締結されたこの協定の破棄によって、どのような安全保障上の影響があり得るのか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【地図】南北会談宣言 朝鮮戦争の「終戦」が日本にもたらすもの
米国は60か国以上、日本はわずか7か国
韓国政府は8月22日、日韓「秘密軍事情報保護協定」(GSOMIA=General Security of Military Information Agreement)を延長せず破棄すると発表しました。 GSOMIAは軍事情報の扱いをめぐり、第三国への情報提供の禁止をはじめ、秘密の保護、指定、国内法令の制定、アクセス制限、さらには電子的手段での秘密情報の送付規制などを取り決める協定であり、これを結ぶことによって同盟国間、あるいはそれに準ずる国家間での軍事情報の共有が可能になります。たとえば北朝鮮のミサイル発射に関する情報なども対象となります。 GSOMIAを最も多用しているのは米国で、60か国以上と結んでいます。韓国は33か国(日本を含めて)です。 それに対し日本は、NATO(北大西洋条約機構)と、米国やフランス、イギリス、イタリア、豪州、インドそして韓国のわずか7か国です。日本が少ないのは自衛隊の性格上、軍事情報を他国と共有することには慎重だったからだと思います。2007年になってようやく米国とGSOMIAを結びました。 韓国との締結は2016年でした。日本も韓国も米国と同盟関係にあり、日米韓の3国は北東アジアの平和と安全のために協力しています。この観点からすれば、日本と韓国はもっと早くGSOMIAを結ぶべきだったとも考えられますが、結果として日韓のGSOMIAは日米より8年も遅れました。
衛星による情報で遅れ取っていた韓国
韓国には、1980年代から日本とGSOMIAを結びたいという考えがありました。韓国軍は、北朝鮮に関して信号(通信以外の電子信号)、画像、音声情報については豊富に持っていましたが、朝鮮半島外での情報は十分ではありませんでした。また最近では、衛星による情報収集の面で日本の自衛隊より遅れを取っていました(※参考1)。 しかし、韓国内には日本と軍事面で協力することに強い反対の声があり、韓国国会ではGSOMIAを結ぶことについて賛否が分かれていました。反対の理由は、主として日本による植民地支配などといった歴史問題でした。 李明博(イ・ミョンバク)大統領(2008~2013年在任)の時代になって、日韓GSOMIA締結に向けた議論が進み、あと一歩で協定を署名するところまでこぎつけましたが、結局国会の反対が強くなり、交渉は頓挫してしまいました。そして2013年にその後を継いだ朴槿恵(パク・クネ)大統領の時代になって、ようやく結ばれたのです。 2017年に文在寅(ムン・ジェイン)大統領が就任すると、朴槿恵政権下での慰安婦合意が履行されなくなったほか、韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工への賠償を命じる判決を出したことに始まった一連の徴用工問題が深刻化しました。そうした状況の中で、日本政府が今夏、韓国に対する輸出規制を強化したのに対し、韓国で強い反発が起こり、文政権はGSOMIA協定を破棄することを決定しました。韓国政府は「日本が輸出優遇国(ホワイト国)から韓国を外したことが両国の安保協力環境に重大な変化を招いた」ことを理由に挙げました。 (※参考1)…THE DIPLOMAT, November 24, 2016, By Jaehan Park and Sangyoung Yun