室伏が打ち立てた日本選手権V19の意義
ブランクをまったく感じさせない安定したスローに、今夏にモスクワで開催される世界陸上への期待も高まってくる。韓国・テグで開催された2年前の大会では、現時点では最後の80m超えスローとなっている81m24の好記録で史上最年長優勝を果たしている。 室伏は前回の世界陸上の金メダリストとして、モスクワ大会の出場権を持っている。あとは本人の意思次第。次の半年の目標をまだ設定していない、という理由で試合後は出場への明言こそ避けた室伏だが、年齢への挑戦という点においては早くもモチベーションをかきたてられているようだ。 「誰と戦えばいいのか。連覇すれば自動的に最年長優勝となるわけですし、私自身と戦わなければ出られない、ということは面白いことでもある」 過去に誰も達成してないこと。頂点を極めたアスリートをかき立てるのは、やはりこの点に尽きるのだろう。世界選手権出場についてのイエス、ノーをハッキリは口にしなかったが、V19まで積み上げた、己のハンマーの歴史とも言える日本選手権には特別な思いがあるのだろう。 「20連覇はできれば達成したい。体のメンテナンスの維持が年々難しくなってくる中で、努力することによって連覇を伸ばすことができた。これからも自分の体の研究を続けながら、体力の限界に挑戦する姿を見せていきたい」 尊敬してやまない父は、ひざや腰の負傷を乗り越え、38歳9か月だった1984年7月に最後となる日本記録更新を果たしている。アメリカでの競技会で75m96を目の当たりにして感銘を受けた室伏は、1998年に父の記録を初めて更新。以来、記録面でも日本の頂点に君臨し続けている。 くしくも同じ38歳の室伏にとって、記録うんぬんではなく、努力と研究の積み重ねで自分を超えるという意味でも今年は特別な意味を持っているのかもしれない。父も息子へ熱いエールを送る。 「ハンマー投げは奥の深い競技。上手くエネルギーをためながら加速していって、最後に爆発させる。あまり力は要らないし、逆に力が入れば加速が阻害される。その意味では、まだまだ改善される余地があると思います。ハンマー投げという競技の真髄に近づいていけば、80mというものが再び見えてくる。今の年齢で80mを投げられれば、価値はまったく異なるものになりますから」 例えるなら、流れる雲をつかむかのごとく。前を走る選手が誰もいない世界で、昨日の自分を超えるための室伏の孤高な挑戦は続いていく。 (文責・藤江直人/論スポ)