真藤舞衣子(料理家)「七飯・山田農場 チーズ工房」──山地放牧されたヤギからの恵み。特集:車とともに旅に出よう。
旅の季節がやってきた。西へ東へ、国境さえも越えて、車はどこまでも私たちを運んでくれる。かつて、若きジェントルマンは未知なる世界へ、見知らぬものと出会い、自身を高めるために旅に出た。車を相棒に、グランドツーリングへと出かけよう。料理家の真藤舞衣子とグルメの注目スポット、函館に向かった。 【写真を見る】雄大な自然を堪能する。
「これ、リアル“アルプスの少女”じゃない?」と笑う真藤。30度を超える急斜面の山地に40頭ものユキちゃん、否、ヤギが放たれ、代わる代わる鼻をおしつけ、挨拶にやってくる。ここは日本でも珍しく、ヤギ乳だけでチーズをつくっている「山田農場 チーズ工房」だ。 生産者である山田圭介はこの地に17年前に入植。「背丈を超えるような笹に覆われていた」山を自ら開墾、自然の植栽でヤギを育てることを目指し、配合飼料を与えずに放牧と米や大豆など道内の農副産物だけでヤギを育てている。ミルクは1日に2回、手で搾り、生乳(無殺菌)のままこの土地から生まれた乳酸菌と酵母でチーズへ仕立てられる。出来上がるのは、季節ごとにヤギたちが食べている草で味が変化する、この土地をそのまま表現したようなチーズだ。 代表作であるチーズ「Garo」を以前から取り寄せていたという真藤は、その魅力を「フレッシュで食べても美味しいですが、熟成が進んでナッツのような香りが出てきたころが最高。さらに表面が褐色がかってウォッシュチーズもような風味が出てくるころも美味しいから、食べ時に悩むんです」と語る。確かに、この日も3つ購入していたから、いつ食べようかとタイミングを計っているに違いない。ちなみにおすすめの食べ方は「フレッシュならそのままサラダに入れたり、サワードゥ ブレッドにのせてジャムを添えたり。熟成が進んだらそのままワインのお供に」 農園の直売所では、チーズやジャムのほか山田夫妻が吟味した調味料や自然派ワインが並ぶ。傍らには貯蔵庫やワイン畑が普請中だったが、すべて手づくりであるため、完成まであと数年かかるかもしれない。ここは、ゆったりとした時間が流れる山の農場である。 ■山田農場 チーズ工房 住:北海道亀田郡七飯町上軍川 900-1 TEL:0138-67-2133 直売所の営業:11:00~15:00(土日は基本的に営業、平日は要予約) 休:不定 アクセス:函館市内より車で約50分 Instagram:@yamadanoujou_ goatcheese ■真藤舞衣子(しんどうまいこ) 料理家。会社勤務を経て1年間京都の禅寺で生活、パリのリッツ・エスコフィエでディプロマ取得。主に発酵料理を得意とし、和洋中、スウィーツ、パンなどの幅広いレシピで人気。主著に『和えもの』『はじめてのサワードゥ ブレッド』『発酵美人になりませう。』など。
文・秋山都 写真・山田晃 イラスト・尾黒ケンジ 編集・岩田桂視(GQ)