迫る濁流、胸の高さに 奥能登豪雨で輪島・宅田町「なぜ能登ばかり」
●仮設からずぶぬれ避難 未曽有の大雨は見る見るうちに濁流になり、能登半島地震の被災者が暮らす応急仮設住宅をのみ込んだ。水かさは胸の高さに達し、住民は「地震からようやく落ち着いたと思ったら雨。怖かった」と声を震わせた。何とか確保できた住まいから、ずぶぬれで避難を余儀なくされた住民は「なぜ能登ばかり」と疲れ切った表情を浮かべた。 【写真】仮設住宅から避難所に移るためバスに乗り込む被災者=21日午後2時25分、輪島市門前町浦上 輪島市宅田町の商業施設「パワーシティ輪島ワイプラザ」内のテナントで働く百成(どうめき)文代さん(55)は午前10時過ぎ、同じ敷地内にある仮設住宅へ向かうと、あふれる水に行く手を阻まれた。 5月に夫と母親(82)と入居した仮設住宅には、母親と飼い犬のチワワが取り残されていた。百成さんの身長は約160センチ。胸の高さまで水が迫る中、進むに進めず、パトロール中の警察官に助けを求め、母親とチワワは無事、救い出された。 ●朝市出張先も閉鎖 同じ仮設住宅団地に妻と2人で過ごす加治武さん(85)は車で避難しようと、近所の知り合いに運転を頼んだが、避難に備え貴重品を用意する10分ほどで車が動けなくなるまで水かさが増した。 ひざ下まで水に漬かり、妻と輪島ワイプラザに駆け込んだものの、朝市が出張開催されている施設も雨でほどなく閉鎖され、約200メートル離れた市立輪島病院に移った。8月に仮設に入居したばかりで「やっと住まいを確保できたのに」とため息をついた。 ●洪水、土砂想定区域に仮設2813戸 石川県によると、珠洲、輪島、能登3市町の応急仮設住宅計5108戸のうち、洪水浸水想定区域と土砂災害警戒区域に該当するのは重複を含め2813戸となっている。能登は平地が少ないため、県と市町は近くに緊急避難場所を確保した上で建設してきたが、リスクが現実になった格好だ。 中でも輪島市は全2897戸中、洪水浸水想定区域に建つのが1809戸、土砂災害警戒区域に立地するのは935戸となっている。