なんと12日間燃え続けた…「長周期地震動」で発生した「史上最悪の石油コンビナート火災」
想定・予測数値には、誤認と誤差がある
表-2に記載されているのは、「津波高1m最短到達時間」。なぜ1mを基準にしているかというと、津波が1mを超えると、巻き込まれた人の死亡率が100%になること。さらに、1mの津波が市街地を蹂躙すれば、人も車も押し流し、避難を妨げ、大きな被害が出る可能性が高いこと。その危険を回避するため、津波が1mの高さになり海岸へやってくる最短到達時間をモデル委員会が推計し公表している。 一方で、気象庁が地震発生直後に発表する「津波の到達予想時刻」は、津波によって海岸付近の海面が変化し始める時刻。なので、表-2にある地震発生前に推計し公表した「津波高1m最短到達時間」と比較すると、気象庁の「津波の到達予想時刻」の方が圧倒的に早い時間になる。例えば、港区の「津波高1m最短到達時間」は、地震発生後199分とされている。しかし、震源域の場所によっても異なるが、地震発生後に気象庁が発表する「津波の到達予想時間」は、地震発生5分後(島しょ部)とか60分後(対象区部)になる可能性がある。モデル検討会と気象庁の考え方が違うからである。気象庁は0.5mの津波でも、海中作業者は大きな影響を受け、海岸で遊んでいる人も流される危険性があると考えている。津波が0.5mになってから警告しても遅いので、海岸付近の海面が変化し始める時刻を推計して「津波の到達予想時刻」を発表し早期避難を促しているのだ。これは、以前から公表されている話である。 ところが、「津波高1m最短到達時間」を、避難完了までの猶予時間と誤認し、ほとんどの自治体や企業が、その時間を基準に避難完了を目指し、避難方法や避難場所を設定し、防災訓練を実施している。住民に対してパンフレットなどで「津波高1m最短到達時間」を示し、その時間までに避難するよう周知している自治体も多い。防災関係者であれば、こうした最低限の知識は必要である。 さらに、現在想定している津波高や最短到達時間の数値通りに津波は来ないかもしれない。想定されている震源域が少しずれれば、震度も津波高も到達時間も大きく変わる。現在発表されている数値は、いくつかのケース(前提条件)ごとに推計したもので、一定の評価ができるものだが、自然は気まぐれである。その予測震源域や予測数値通りに地震や津波が起きるとは限らない。 例えば、東日本大震災前に発表されていた「第三次宮城県地震被害想定」では、宮城県南三陸町・防災対策庁舎のある志津川地区の想定津波高は、6.7mだった、しかし、3.11で防災対策庁舎を襲った津波の高さは、被害想定の倍以上の15.5mだった。想定を信じて12mの屋上に避難した54人のうち、43人が死亡または行方不明になっている。 南海トラフ巨大地震でも、想定されている発生確率、震度、津波高、津波の最短到達時間はあくまで目安であって、絶対ではない。過去50年以上、災害現地調査で得た経験則は、「予測や想定・推計数値には概ね1/2~約2倍の誤差がある」と思っている。地域によっては、防災ハザードマップの片隅に「これは目安です」と小さく書いている自治体もある。 とはいっても、現在発表されている想定数値を過小評価する必要はない。防災行動マニュアル作成の際は、想定数値を参考にしつつ、その数値の誤差を見込み最悪を想定して行動計画を作成する。誤差を見込むことで空振り行動が増えるかもしれないが、それは「良い訓練」と思って容認し空振りを恐れないことが重要。なぜならば、自然災害は我々の想定を上回ることが多い。想定を上回る災害だとしても死んではいけない。死なせてはいけない。たったひとつしかない命は、どんなことをしても守り抜くことだ。そのために必要なのは「想定を上回る災害にも対応できる実践的防災・危機管理」である。 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)