河合優実、静かなる大ブレイク──映画『ナミビアの砂漠』インタビュー
自己と他己のバランス。『ナミビアの砂漠』は、その分水嶺といえるかもしれない。本作を手掛けた山中瑶子監督は、河合が「初めて言葉を交わした映画監督」。2017年、当時高校生だった河合はポレポレ東中野で上映された山中監督の『あみこ』を観に行き感銘を受け、彼女に「女優になります」と手紙をしたためたという。そんな恩人との初タッグともなれば、舞い上がってしまうのは無理からぬこと。本人も「まるでご褒美のような時間でした」と振り返るが、そんなときに顔を出したのは、これまでの経験の中で培ったプロとしての冷静さだった。 「台本を読み返してみると、“ここで何をやった”といったことを細かくメモしてありました。私は元々、作品全体を整理するためにもシーンを並べて書き出してみて『ここで大きな転換がある』というポイントを見つけたら、そこに向けてどう流れを作っていくかを考えるタイプです。カナは気持ちのアップダウンが大きい役なので、何をきっかけに下がったり上がったりするのかを明確に把握するためにも必要な作業でした」 思えば河合は、作品全体を俯瞰してシーンごとの方向性やゴールを見定め、“逆算”して演じる俳優であった。『ナミビアの砂漠』のように夢が叶った状況であっても、生来の気質は揺るがない。 「特に今回は脚本が直前で上がっていますし、3週間という撮影期間の中で短期集中して瞬発的に出てくるものを撮っていくような現場だったため、自分の中ではその意識がより必要でした。ただ面白いものをできるだけ純粋な気持ちで撮りたいとみんなが楽しみながら臨む作品だったぶん、自分が流され過ぎないようにしよう、とは考えていました」 一体感がある現場を歓迎しつつ、最終的な「出口」は見失わない──。ブレイクやブームという一過性の加熱を持ち前の冷静さでコントロールしながら、河合優実は突き進んでいく。
YUUMI KAWAI 俳優 2000年生まれ、東京都出身。2021年公開の映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』の演技が高く評価され、第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞、第64回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。2024年は主演作『あんのこと』、吉田美月喜とダブル主演を務めた劇場アニメ『ルックバック』など、話題作への出演が続いている。 『ナミビアの砂漠』 職業:脱毛サロンスタッフ、趣味:特にナシ、将来の夢:特にナシ、彼氏:とりあえずいる、いつも一緒:タバコとケータイ──何に対しても情熱を持てず、恋愛も暇つぶしと考えている21歳の女性を通して、日本の若者たちのリアルを描き出した恋愛、青春映画。奔放ながらも気怠そうに生きている主人公のカナを、俳優の河合優実がみずみずしく演じる。監督・脚本:山中瑶子|出演:河合優実、金子大地、寛一郎|配給:ハピネットファントム・スタジオ|公開中|©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会 PHOTOGRAPHS BY SODAI YOKOYAMA STYLED BY ERI TAKAYAMA HAIR STYLED & MAKE-UP BY AYA MURAKAMI WORDS BY SYO EDIT BY AKIRA KAMIYA @GQ