焦点:国内生保、下期の円債投資姿勢に濃淡 脱「円金利一辺倒」も
Tomo Uetake [東京 30日 ロイター] - 国内の生命保険各社は2024年度下期、金利上昇で投資妙味の高まる日本国債への投資を運用計画の中心に据えている。ただ、投資姿勢には濃淡があり、大手生保の一部には「脱・円金利一辺倒」を模索する動きも出ている。 生命保険契約という超長期の円建て負債を抱える生保会社にとって、年限の長い日本国債は長年、資産運用の柱となってきた。日銀の金融政策正常化を背景に国内金利が上昇する中、24年度下期も超長期国債が運用の主軸との構図自体は変わらないが、持ち過ぎは「リスク」だとして、他の資産と「リスク対比リターン」を比較した上で配分する姿勢を鮮明にする会社も増えつつある。 <規制対応は早くも達成> こうした円債投資意欲のばらつきの背景には、25年度に導入される新たな資本規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)対応の「順調すぎる」進捗状況がある。 現行の規制では保険会社の健全性について、資産を概ね時価で評価する一方、負債(責任準備金)は簿価で評価。しかし経済価値ベースでの健全性評価を目指した新規制では、負債勘定も時価で評価することとなり、金利変動リスクが発生する。このため多くの生保では、資産勘定と負債勘定のデュレーションをなるべくマッチさせて、バランスシート全体の金利リスクを縮小させるため、超長期債の購入を積極的に行ってきた。 第一生命では、前中期経営計画(中計)の期間だった21─23年度の責任準備対応債券(円債)の積み増しを進めた結果、前年度末には金利リスクの削減目標を超過して達成。またほかの大手生保幹部も、ロイターの取材に対し「デュレーションギャップ(資産と負債の年限構成の差)はほぼゼロ」と話している。 <金利上昇でジレンマも> この新規制の日本での導入に対する意識が強まったのは2019年ごろ。このため生保各社は、日銀のマイナス金利政策のもと長期金利がゼロ近辺、30年金利が0.2─0.4%台と低位で推移していた19年度末から、着実に超長期国債を積み上げていった。 結果として、大手を中心に早くも金利リスク削減目標を達成する会社が相次ぎ、日銀がマイナス金利政策を解除し、新発30年国債利回りが2.2%と、主要生保の負債コストの1.8%を上回る水準に上昇してきた今、少なくとも規制対応目的では「超長期の円債を買う必要がない」というジレンマが生まれている。 明治安田生命の北村乾一郎運用企画部長は「過去数年のように新規制対応でやみくもに買うスタンスはとらない。デュレーションの長いものを大量に買ってしまうと国内金利リスクが上昇し、リスク管理上好ましくない」と話している。 <買い余力残す生保も> 日本生命や第一生命に加えて、太陽生命、富国生命、大同生命などが下期に円債(日本生命は日本国債)残高を増加させる計画で、傾向としては中堅生保により前向きなスタンスが多い印象だ。 かんぽ生命も一時払い終身保険の販売が好調だとして、「今のように(30年金利が2.2%と)水準が悪くないなら、保険料が入ってくれば、素直に着実に超長期国債を購入している」(野村裕之執行役員・運用企画部長)と買い目線でいる。 <30年金利2.5%で買い加速というが> とはいえ各社とも、金利が一段と上昇して超長期国債の投資妙味が高まる局面では買いを積極化する姿勢を示す。 購入を加速させる目安としては、第一生命や大樹生命、大同生命などが「30年金利で2.5%への上昇」を挙げており、そのあたりが各社の共通目線と言えそうだ。 ただ、その実現可能性は必ずしも高いと見られているわけではない。 住友生命とかんぽ生命では、下期に30年金利が2.5%まで上昇する可能性は低いとの見方から同金利のレンジ上限を2.4%と想定するほか、日本生命と明治安田生命のレンジ上限は2.5%と似たり寄ったりで、大幅な買い余力を残して年度内の金利上昇局面を待っているわけではなさそうだ。 <脱「円金利一辺倒」> 明治安田生命の北村氏は「われわれにとって円債は、あくまで世界的な債券の中の1つのパートでしかない。バランスを取りながら分散投資する。決して円金利一辺倒ではない」と述べ、一本足打法からの脱却を図る考えを示す。 分散投資先としては、ヘッジ付き外国社債のほか、ヘッジコストの変動に耐性のあるローン担保証券(CLO)やプライベートクレジット(ノンバンクによる企業向け融資)などの変動金利資産を挙げる向きが多い。 (植竹知子 取材協力:金融マーケットチーム 編集:橋本浩)