【JJドラマ部】新進気鋭のテレ東ドラマPに制作裏話を根掘り葉掘り聞いてみた|JJ
一ノ瀬颯/鈴木悠馬役 ©「SHUT UP」製作委員会 イマ:私は鈴木悠馬役の一ノ瀬颯さんがいいなって。『ハレーションラブ』(2023年/テレビ朝日系)というドラマで演じていたサイコパスっぽい役の、一瞬で変わる表情が怖いなって思っていたんです。 小林:今回演じている悠馬役も、格下の女の子をはらませてポイするっていう最低の役じゃないですか。とても、お昼の明るい情報番組『王様のブランチ』(TBS系)に出ているとは…(笑)。 本間:あの、一ノ瀬さんご本人はとてもいい人なんで(笑)。一ノ瀬さんは目の演技がすごいんですよ。繊細な動きでも、観た人の印象に残るアプローチをしてくるんです。 小林:あとはパパ活で女子大生たちを買う、おじさんたちのナイスキャスティング(笑)! イマ:同感! いかにも買いそうって感じの人たちでしたよね(爆笑)。 本間:パパ活をする男性役を選ぶ時に私が軸にしていたのが、女の人が彼らに対して感じる「気持ち悪さ」「薄気味悪さ」があらわれることでした。そういう負の感情を反映できる人がいいなと思って。 イマ:いやー、主役以外のキャスティングも奥深いですね。 ◆女の友情はそう簡単になくならない 小林:田島由希、川田恵(莉子)、工藤しおり(片山友希)、浅井紗奈(渡邉美穂)の、同じ寮に住みながら、貧困同士で助けあう関係もいいんですよね。あの4人の友情はラストまで続くんでしょうか? 本間:続きます。さすがに最近はあまり耳にしないですが、「女の友情は儚いからね」とか、「表面上は仲良くしていても、裏でどう思っているのかわからないよ」と言う人が多かった。 小林:結婚、出産、離婚に仕事。女のタイムテーブルはどんどん変わるのに。 本間:そうですよね! ライフステージが変わるだけで、友情関係がなくなるっていうことはないです。個人と個人の波動みたいなものが、ちょっとずれる時期があるだけなのに、それを周囲から「女の友情なんて」って揶揄されるのは違いますよね。 イマ:『ブラッシュアップライフ』(2023年/日本テレビ系)がまさにそれでしたよね。昔は、恋愛のこじれや結婚して家に入ることで友情が続かなくなる描写がよくあったけど、このドラマでは女性4人の友情が、結婚や出産によって振り回されることがなかった。 小林:『SHUT UP』を制作するうえでどんなふうに若い女性たちにリサーチされました? 本間:実は企画が通ってから半年くらいで撮影に入ったので、あまり時間がなくて…。YouTubeを見たり、関連する記事をたくさん読んだりしました。あとは弁護士、警察、医療の監修に入っていただいたので、その方たちから話を聞いたりも。悠馬たちみたいな大学生の実情も知りたかったので、会社で同じような環境で育った人にヒヤリングもしました。 イマ:とても半年程度しか準備期間がなかったとは思えない、濃い内容ですね…。主役4人のキャスティングも奇跡的にスケジュールが空いていたということですし。 小林:でも、われわれがやっているような雑誌や写真集の仕事でも、ギリギリでブッキングしたら奇跡的に全部OK!とか、そういうことはありますよね(笑)。私、雑誌の編集部時代は毎号そんな感じでした。 イマ:逆に、時間がたっぷりあると全然うまくいかないのも、あるあるですよね(笑)。 本間:小林さんは普段どんなふうにリサーチをされていますか? 小林:私はベテラン刑事のごとく、とにかく足で稼ぐ!ですね。三茶界隈の飲み屋で大学生捕まえて生々しい話を聞いたり、SNSで検索をしたり。やっぱり聞こえてくるのは貧困問題ですし、ドラマでも昨年は『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)、『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)、『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)、『癒やしのお隣さんには秘密がある』(日本テレビ系)、『王様に捧ぐ薬指』、『マイ・セカンド・アオハル』(ともにTBS系)と、貧困主人公が大活躍していました…。ヒロインがカフェに行けず、コンビニのアイスが最高の贅沢って、なんか夢も希望もない時代だなって。 イマ:もはやヒロインが貧困じゃないと、視聴者の共感が得られないのかもですね。 本間:ドラマって、今の時代に寄り添った、みんなの生活の延長線上にあるものを作ろうと考える制作陣が多いと思います。その結果、世界観のマジョリティーが貧困になりつつある現代は、それをテーマや設定として取り入れることも増えているんでしょうね。 ◆新しいドラマの構想は、同性愛ではない男性同士が癒しあうドラマ 小林:なんだか話が湿っぽい方向になってきましたが、この辺で新年も明けたので2024年の目標とかどうでしょう? イマ:目標…まあ、仕事については会社員なんで自由に選べませんが(笑)、観たいドラマならありますよ! ジャンルとしてホームドラマが好きなので、大きな事件は起きないけど、日々の生活の機微を感じるような作品が観たいです。(本間さんのほうを向きながら)ぜひお願いします! 小林:ホームドラマといえば、この鼎談の参加者で唯一ご家庭があるイマイズミさんですけど、『SHUT UP』を観て思うところはありました? イマ:大学生の息子と高校生の娘がいるんですけど、俗にいう「何不自由なく」育ってしまったので、由希たちの気持ちが理解できるのか、ちょっと不安に思うことがあります。学生のうちは、人間関係ってある程度範囲が決まってるじゃないですか。でも就職して社会に出ると、由希たちのような経験をした人が同じ会社にいたり、仕事相手だったりするのかなって。そんな時に、相手に対する理解が足りなくて傷つけてしまう、もしくは自分が傷つくことになるのでは?とか考えましたね。 小林:ありますよねー、何不自由なく育ったお嬢様がうっかり不良を好きになってしまうとか。 イマ:そんなドラマみたいな話で済むならいいんですけどね(笑)。だから、視野を広げるために子どもたちにも『SHUT UP』を観てほしいと思います。 本間:うれしい! イマ:小林さんの目標は? 小林:さっき、話題にもあがりましたけど“女のタイムテーブル”をテーマにした本を書きたいと思っています。本を数冊書いて思ったんですけど、「書くこと」は誰でもできるんです。大事なのは、実は「売ること」で、まずどんな売り方をするのかを事前にぜんぶ準備した本を作りたいなって。例えば、本の発売と同時にラジオ番組やイベント決まっているとか。内容はまだ全然決めていないんですけど、まずはプロモーションありき、だなと。 本間:ドラマもプロモーションが大変です。 小林:ですよね。でも誰かにこうして伝わったら面白いし。あとは今年とは言わないですけど、自分の本が映像化したらいいなと考えています。あっちこっちで、ドラマ好きだと言いまくっていたら仕事に繋がったし、最終的には制作に関わってみたいですよね~。で、本間さんの2024年は? 本間:今年はですね、尊敬する先輩の企画にセカンドプロデューサーとして参加する予定です。あと、今年に限らないんですけど、男性同士がケアする話を作りたいと思っています。 小林:それは男同士が恋愛に発展する的な? 本間:ではないんですよ。男の人って癒しを女性に求めがちじゃないですか。でも、女性は女性同士で癒しあって、お互いのケアもできる。言葉を通したコミュニケーションに長けているんですよね。逆に男性には、そういう能力が発達していないように思うんです。悩み事があっても、「とりあえず飲みに行こう!」って酔ってごまかすようなコミュニケーションになってしまう。 イマ:たしかに、私も何かと飲みに行きがちですね(笑)。 本間:それも優しさなのかなって思うけど、まずは相手の、彼の気持ちを聞く。向き合って聞く。言葉にすること、相手の負の感情やシリアスなことを受け止めることも大事なんだと思います。そういう、男性同士がコミュニケーションを深められるようになるドラマを作ってみたいですね。 イマ:これからは男性の独居老人がどんどん増えていく社会(2020年国勢調査において男性の生涯未婚率は28.3%で過去最高記録)になると思うので、ぜひそのドラマで世の中に風穴を開けてほしいです! ◆『SHUT UP』あらすじ ドラマのテーマは「貧困、格差、復讐」。田島由希(仁村紗和)、川田恵(莉子)、工藤しおり(片山友希)、浅井紗奈(渡邉美穂)は同じ寮に住む同世代4人。それぞれがアルバイトを掛け持ちし、自身の収入で生活を支える苦学生でもある。ある日、恵の予期せぬ妊娠が発覚。その父親は名門大学に通うセレブ学生・鈴木悠馬(一ノ瀬颯)だが、自分の過失ではないと妊娠を認めない。そんな恵のために、中絶費用を稼ぐためにパパ活を始めた3人。ここから4人の運命が少しずつ、予期せぬ方向に動いていく。果たして最終的に勝つのは正義か、金か、地位か、それとも。 【ドラマプレミア23】『SHUT UP』はテレ東にて放送ほか、TVer、U-NEXT、Leminoにて配信中 小林久乃(こばやし・ひさの)コラムニスト、編集者。正々堂々の独身。中学生から地上波ドラマを愛して30年以上、筋金入りのオタク。好きが高じてついには『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓した。ラブストーリーが好きで、特に禁断の恋がテーマとなると視聴熱が俄然、盛り上がる。 元JJ編集長イマイズミ 女性誌『CLASSY.』『JJ』の編集長を歴任。1クールの地上波ドラマを全録画するようになったのは、編集長になった13年ほど前から。「仕事で新しい俳優、タレントさんを覚えるため」というのが理由だったけど、見事に大ハマり。ホームドラマとラブコメ好き。韓国ドラマもやや中毒。 取材・文/小林久乃 イラスト/lala nitta