映画『市子』単独初主演の杉咲花 涙だけじゃない “魂の叫び”をたたずむだけで魅せる「迫真の演技」
現在公開中の映画『市子』で、単独初主演を果たした俳優・杉咲花。今作には 「精魂尽き果てるまで心血を注いだ」 【写真あり】杉咲花 朝ドラ女優が「残暑のロケ現場」で見せた圧倒的存在感 と明かす杉咲の迫真の演技には衝撃が走っている。 市子(杉咲)は、3年間一緒に暮らした恋人・長谷川(若葉竜也)からプロポーズをされた翌日、忽然と姿を消す。長谷川は行方を追い、これまで市子と関わってきた人達を追いかけていくうちに、過酷な宿命を背負った切なくも壮絶な市子の人生が浮き彫りになっていく。 彼女の存在を自分の中に落とし込むために、ロケハンにも同行。どこか満たされない市子でいるために減量も行いノーメイクで撮影に挑む杉咲。そうするうちで、“自分でもわからない”市子の感情に出会える瞬間が何度もあったと告白。語らずに目や佇まいだけで、壮絶な人生を歩んできたことを感じさせる杉咲の演技には、目を見張るばかりだ。 「そのひとつが、市子が長谷川から婚姻届をもらい涙にくれるシナリオにはなかった場面。出生届を出されることなく、無戸籍児として生きてきた市子だからこそ芽生える、張り裂けそうな思いから『涙が止まらなくなった』と杉咲は話しています」(制作会社ディレクター) だが杉咲の涙に心を奪われたのは、今回が初めてではない。 「日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞した映画『湯を沸かすほどの熱い愛(’16年)』では陰湿ないじめから制服を隠され、母(宮沢りえ)に『逃げちゃダメ。立ち向かわないと』に諭され、『私には立ち向かう勇気なんてないの』と、絞り出すような声で訴えかける、哀しみで張り裂けそうな安澄(杉咲)の見せた涙。 さらに’21年。ヒロインを演じた朝ドラ『おちょやん』(NHK)では大阪大空襲ですべてを失い、食べ物を分けてもらいに行き、心無い言葉を投げかけられ、月明かりの竹林の中で力尽きて泣き崩れる千代(杉咲)の流す涙は、朝ドラ史上でも語り継がれる名場面。杉咲の涙には、見る者を惹きつける引力のようなものが感じられます」(制作会社プロデューサー) 今作は、監督の戸田彬弘が主宰する「劇団チーズtheater」の旗揚げ公演『川辺市子のために』が原作。サンモールスタジオ選定賞2015では、最優秀脚本賞を受賞。観客から熱い支持を受け、これまで2度にわたって再演された話題作でもある。 「脚本を読み終えた杉咲は、『魂が共鳴して涙が止まらなくなった』。シンパジーを抱いて、『絶対やりたい』と思ったとコメント。 市子は、選びようがない現実に押しつぶされそうになりながらも、 “生き抜くために”犯行を重ねる。この魂の叫びを、演じることなく佇まいだけで見せる。今作は、俳優・杉咲花にとってもターニングポイントとなった作品と言えるでしょう」(前出・プロデューサー) 「予告編」にも登場する土砂降りの雨の中、 「最高や。全部流れてしまえ!」 と天に向かって叫ぶシーンに心を奪われたのは、私だけではあるまい。 「性加害の危機にも晒され、みずからの過酷な環境を呪うも“生き抜く”ことを諦めない市子。このシーンを観て市子の流す涙や汗が雨に流され、やがて虹となって海に架かる。こうしたファンタジーな仕掛けも見どころのひとつ。 そう思えば映画の冒頭、そしてラストシーンで市子がハミングする童謡『虹』は、母・なつみ(中村ゆり)が過酷な現実を乗り越えるために歌っていた希望の歌。この歌を口ずさむことで心を失わずに“市子”として生きていくことが、かろうじてできたのかもしれません」(前出・ディレクター) 杉咲は、3月には主演映画『52ヘルツのクジラたち』が公開。さらに人気脚本家・坂元裕二が手掛ける映画『片思い世界』に広瀬すず、清原果耶とトリプル主演。 4月期の連ドラのヒロインにも決定。来年には、俳優としてさらなるステップアップが期待される。 「12月8日に封切られた『市子』。来年発表される映画賞で12月の公開は、今まで不利と見られていました。ところが去年、12月16日に公開された映画『ケイコ 目を澄ませて』に主演した岸井ゆきのが、日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞。杉咲が映画賞を獲得する可能性は十分にあります」(前出・プロデューサー) 杉咲花、26歳。今作品をきっかけに、来年はさらなる飛躍の年になりそうだ――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中
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