【ホロライブ】さくらみこ×堀江晶太×神田ジョン対談。アルバム表題曲『flower rhapsody』はみこちの軌跡や“過去の自分に伝えたい言葉”をギュッと詰め込んだ曲【3連続インタビューVol.3】
女性VTuberグループ“ホロライブ”所属のさくらみこさんの1stアルバム『flower rhapsody』。2024年9月25日にリリースされた全国流通のフルアルバムで、彼女にとって6年間の活動を経て見つけることができた“自分らしさ”と、ずっと隣りを歩いてくれた“あなたへの想い”を詰め込んだ作品です。 【記事の画像(2枚)を見る】 豪華作家陣書き下ろしの新曲含む全12曲で構成された待望のアルバムは、オリコンデイリーのアルバムランキングで1位、moraダウンロード総合チャート1位、iTunesダウンロードランキング2位など、各種音楽サイトのランキングで上位を獲得しています。 本アルバムの発売を記念して、さくらみこさんご本人と収録楽曲を手掛けた作家陣によるオンライン対談を3回に分けて実施。最後となる第3回では、アルバムの表題曲『flower rhapsody』の作詞・作曲を担当した堀江晶太氏、編曲を担当した神田ジョン氏との対談をお届けします。 さくらみこ: ホロライブ0期生、電脳桜神社の巫女。アイドルに憧れを抱き唯一無二のトップエリート巫女アイドルになることを目指して日々奮闘中! “エリート”と自称しているが、35P(ファン愛称)のあいだでは“ポンコツ”という噂も……。 堀江晶太(ほりえ しょうた): 作詞家、作曲家、編曲家、ベーシスト。ロックバンド“PENGUIN RESEARCH”では、メインコンポーザーとベースを担当している。ボカロP名義の“kemu”としての創作活動も有名。本アルバムでは、『flower rhapsody』の作詞・作曲を担当している。(文中は堀江) 神田ジョン(かんだ じょん): 作曲家、編曲家、ギタリスト。ロックバンド”PENGUIN RESEARCH”のギタリストとしての活動を中心に、レコーディングやライブサポートといったサポートワーク、ギターインストラクターなどとしても活躍中。本アルバムでは、『flower rhapsody』の編曲を担当している。(文中は神田) 『flower rhapsody』はさくらみこの精神性、人生を表現した楽曲に ――まずは皆さんの第一印象を教えてください。: 堀江 :僕はもともとライバー文化が好きでよく見ていまして、さくらみこさんの存在も知っていました。配信をしっかり見たのは『エルデンリング』か『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(ポケモンSV)で色違いのホゲータが出るまで続けるホゲチ耐久ですね。強靭な精神力で、スタミナの限界までやるスタイルの配信をしていて、こういう人がいるんだなぁというのが第一印象でした。 このレベルで本気で物事に向き合う人がいる事実に衝撃を受けたのも覚えています。リスナーが見てくれているといった状況もあるかもしれませんが、限界までやるってかなりの忍耐力が必要で、並みの精神じゃないなと。さくらみこさんは、おもしろおかしくやるだけではなく、強靭な姿勢に至る理由が何かあるんだろうなと勝手に想像していました。 さくらみこ :ありがとうございます! 神田 :僕や晶太くんはVTuberに関しては、初期から目をつけていました。VTuber四天王(キズナアイさん、電脳少女シロさん、ミライアカリさん、バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん、輝夜月さんの5人)の出始めのころですね。僕らのバンドの中で「VTuberはこれから来るぞ!」といった話をずっとしていたのを覚えています。 堀江 :俺と神田さんはずっとそういう話をしていましたよね。 神田 :先ほど晶太くんも言っていましたが、その中で抜きん出てくる人たちは、やはり尋常じゃない何かを持っているんですよ。さくらみこさんは声のトーンも相まって、とても前向きでポジティブな印象があります。配信ではときにリスナーとプロレスをしますが、前向きで嫌な気持ちにはならない。それこそ2~3年前の『モンスターハンターワールド』か『モンスターハンターライズ』の配信で、最初のキャンプのアイテムボックスの場所へ行けないシーンは印象的でした。いいポンコツ感とポジティブさ、かつ強靭な精神力を持っていて凄まじいなと。 さくらみこ :みこのおふたりの印象は、英詩的な曲を書く方々といった認識でした。さまざまな曲がありますが、甲斐田晴さん(にじさんじ)の曲が自分の中でとても刺さったんですよ。 堀江 :1曲目の 『透明な心臓が泣いていた』かな? さくらみこ :そうです! とても素敵な曲だなと思って「誰が作っているんだろう?」と調べてみたら堀江さんで、「この方の曲めっちゃ聴いたことあるぞ」、「昔から活躍している人じゃない!?」みたいな……。 堀江 :たしかに活動は長いかもしれない(笑)。 さくらみこ : 『地球最後の告白を』とか、「ほとんど曲知っているわ!」ってなったのを覚えています。そこからVTuberさんにも曲を提供していると知り、甲斐田さんの曲からは「こういう曲も書いているんだ!」って。ボカロとはまたひと味違った、そのアーティストさんに向けた曲というか、その人の感情や活動に対する思いを汲み取って楽曲を作ってくださっているというのがとても伝わりました。 堀江 :うれしい。 さくらみこ :そんな楽曲が自分にもあったらいいなと思い、依頼したのがきっかけですね。 『flower rhapsody』を作るにあたって、参考として『透明な心臓が泣いていた』を挙げさせてもらいつつ、さくらみこの想いを乗せた曲を作ってほしいとお願いしたのを覚えています。 堀江 :そうですね。参考とは言いつつ、スピード感やジャンル、メロディーをこんな感じにというオーダーではなかった記憶があります。精神性をベースとした曲を作りたいみたいな。 さくらみこ :そうです! ――いま少しお話がありましたが、『flower rhapsody』はどういったきっかけで楽曲制作が決まったのでしょうか。EP『heart♡connect』の際には完成していたとお聞きしましたが、制作が決まったときの印象や感想を教えてください。 さくらみこ :もともとEP 『heart♡connect』を作るために動いていたわけではなく、2023年のアルバムに向けて堀江さんにお願いしていました。EPの中に『flower rhapsody』を収録してもよかったのですが、この曲はライブに向けての1stアルバムに入れたいという想いがあって……。あえて外してリリースを先延ばしにさせてもらった経緯があり、かなり温めた曲になりました。 堀江 :どれくらい経ちましたっけ? 神田 :2年は経っていますね。 さくらみこ :そうなんですよ! めっちゃ温めちゃった曲ではありますね……。 堀江 :制作が決まったとき、自分からアレンジは神田さんにお願いしたいと声をかけました。それがかなり功を奏したと思っています。もともと編曲まで自分で制作することも多いのですが、当時は少し忙しく、アレンジまで自分でやるとなるとスケジュール的に受け切れないんじゃないかと心配で。 それと同時に、商業作家として自分の持ち味に大事にしていこうと強く考えていた時期でもあったんです。甲斐田さんの楽曲をはじめ、ライバーさんと向き合ってたくさん話を聞き、その人のオーダーメイド、ワンオフの楽曲を作っていく。アレンジまで全部するというより、メロディーと言葉に集中した方がいいんじゃないかと。 みこさんからのお話をいただいたときも、ご本人と話す前に「何やら人生の一曲のようなものを欲しているらしい」と聞いていたので、メロディーと言葉に全力で向き合いました。メロディーと言葉に集中するために、1から10まで話さなくても理解を持ってアレンジしてくれる人、かつライバー文化とみこさんをしっかり理解してくれている作家にアレンジしてほしいなと思い、神田さんに声をかけました。 神田 :ふたつ返事で「やります」とお返ししましたよね。いまはメロディーと言葉に集中したいと晶太くんからもありましたけど、晶太くんから送られてきたファーストデモはかなり気合いが入っていました。 堀江 :ついついやっちゃう(笑)。 神田 :みこさんも覚えていると思うのですが、「これでいいじゃん!」って思うぐらいにかなり気合い入っていました。 さくらみこ :「すげー! 壮大な曲が来たー!」と思いました! 神田 :そうですよね! 気合いと曲の全体像は見えていたので、アレンジで変に改造するよりかは、いまあるものをより大きくしていくようなアレンジをかなり心がけました。 堀江 :メロディーと言葉だけとは言いつつ、びっくりしてもらいたいので、ファーストデモは可能な限り音を詰めて送りました。ただ、アレンジの骨格はあるんだけど中身がないみたいな状態で、自分の中では納得できていなかったんですよ。そこからアレンジメントと中身に理由を持たせていく工程にかなり時間とスタミナがいるので、そこを神田さんにやってもらいたいなとお任せしました。 神田 :もう10年ほどいっしょにバンドをやっているので、そこに関してはお互い信頼があります。 アルバムの軸となる表題曲は、“過去の自分に伝えたい想い”と活動の軌跡を詰め込んだ1曲 ――改めてになりますが、『flower rhapsody』のテーマを教えてください。また、さくらみこさん、堀江さん、神田さんがそれぞれ考えるアピールポイントなどはありますか?: さくらみこ :アルバムの曲にはそれぞれテーマやコンセプトがあるのですが、 『flower rhapsody』にはありませんでした。というのも、テーマやコンセプトを考える前に完成していた曲なので、逆にこの曲をベースにアルバムのテーマを決めていきました。 ほかの楽曲は最初にテーマを決めて作ってくださいとお願いをしていましたが、『flower rhapsody』はそれらを考えるもとになる曲だったんです。そのため、堀江さんに最初にお願いしたときは“過去の自分に伝えたいこと”、いままでに35P(ファン愛称)をはじめ、みこの活動を見てくださっている人に向けての曲を作りたいという想いで楽曲制作をしていました。 みこの歴史を振り返るような曲を作りたいといったお願いをしたんじゃなかったっけな……。アルバムを作るときもそんな楽曲が1曲欲しいと思っていたので、そのようにお願いをしていたはずです。 アピールポイントは“みこが過去の自分に伝えたい”という想いです。ひとつの成長の節目を表していて、過去の自分に対しての言葉をいっぱい込めているのはもちろん、またワンステップ進んでいくといった“これから”も表現しています。みこのすべてを体現する意味もあるなと思っていて、いままでの自分に対してと活動の軌跡をギュっと詰め込んだような曲です。 堀江 :基本的には「ここがおすすめ!」とあまりうまく言えないほうなので、アーティストさんや曲を聴いた人が気に入るところがあったら「そこです」と言いたいところです。個人的にとてもいいと思うポイントは、わりとスケール感のある楽曲で、簡単なメロディーではなく、難度のある楽曲になったところだと思っています。 ドラマチックに作ったのでハードルが高く、みこさんも打ち合わせの段階で「上手に歌えるかなぁ」と心配されていたのを覚えています。あえてスケール感の大きな曲の中でみこさんの純朴な声というか、自然体のボーカルが真ん中に立っているっていう構図がすごくいいなと私は思っていて。 スケールが大きい曲に技巧派のシンガーがドンと存在しているのに対して、真っ直ぐなみこさんのボーカルがあくまで真ん中にいて、それを包むように楽曲があるという構造は、狙って作れるものではない。そういった意味でも壮大さと当たり前の身近さの対比がこの曲の魅力になったんだと感じています。 神田 :それで言うともうひとつ。さくらみこさんの存在をどんなシチュエーションで聴いていても感じられるのがおもしろいですよね。明るく楽しく活動している方ですが、6年の活動での道のりや苦悩も表現されているんですよ。VTuberって本当に不思議。バーチャルだけど、人の心で動いていて、その存在をとても感じられる。 曲がさくらみこさんを投影していて、この曲を聴くともうなんか脳内にさくらみこさんのホログラムで浮かんでくるんですよ。それぞれの人のさくらみこさんに対する思い出は違うはずですけど、この曲を聴くとブワーっと頭の中に流れてきて感極まってしまう。ライブでもおそらくそんな風になると思います。さくらみこさん自身の代名詞的ソングでもあるし、ファンの方にとっても重大な曲になるのではないかと、僕は思いました。 ――ちなみに、『flower rhapsody』は1stアルバムの表題曲にもなっていますが、表題曲に決めること、曲名は当初からすでに決まっていたのでしょうか? さくらみこ :表題曲はもともと決めてはいなかったのですが、デモをもらったときに「この曲は絶対に最後の表題曲なんだ!」と自分の中でも確信するぐらいステキな曲でした。 曲名は堀江さんからいただきまして。1stアルバムのタイトルを同じ『flower rhapsody』にするかはけっこうギリギリに決まったんです。『flower rhapsody』にかけた別の名前にするか制作陣たちと悩んだのですが、変にもじるよりは『flower rhapsody』のままがいいかと考え、そのまま使わせていただきました。 この曲はライブやアルバムの核になってくれた曲です。こういう曲を作っていこう、こういうテーマでやっていこうと考えさせてもらった曲でしたので。 ――楽曲を制作するにあたって、どのようなやり取りがありましたか? さくらみこさんから堀江さん、神田さんへオーダーなどもあったのでしょうか?: 堀江 :曲を制作するにあたって、まずは通話会議をしました。私が曲を提供するときは毎回絶対条件でやらせてもらっています。みこさんにもOKをいただいたので、私、神田、みこさんの3人で楽曲の話をしたのを覚えています。雑談から入って、曲に関するヒアリングをして……かなり話しましたよね。 さくらみこ :そうですね! 堀江 :2時間とまではいかずとも1時間では済まなかった気が……。その打ち合わせで必要な情報を全部いただきました。いままでのことから、これからどうしていきたいという未来の話、何がうれしくて何が悲しかったかまで、ひたすら話してもらいました。いきなり「こんにちは~あなたの人生を教えて」みたいな流れだったと思うのですが、みこさんはものすごく話し合いに真摯に向き合ってくれたのでありがたいです。 さくらみこ :本当に「あなたの人生を教えて」といった感じの会話内容だったのを覚えています! 堀江 :みこさん的には話したくない部分ももちろんあったかと思いますし、あんまりあけすけに自分の内側を伝えるとなると思うところもあったかと思います。いかがでしたか? さくらみこ :逆にとてもいい機会だったなーと思っています。自分のパーソナルな部分を曲にしてもらうってことは、芯の部分を含めて、どういう想いでどういうときにがんばっているかですとか、包み隠さず伝えることが大事なんだなーってとても感じました。 そこで改めて自分の考えに気付くというか、その想いはあったけど言葉にはしてこないこともあったので、ステキな機会をいただけました。みこからのオーダーとして最初に「自分のいままでを詰め込みたい」とお伝えしたものの、みこがそもそも楽曲制作の知識がたくさんあるわけではないので、曲のメロディーなどは堀江さんたちに頼ってしまいました。自分ができることとして、それこそ質問されたこといっぱい正直に話すみたいな(笑)。 一同 (笑)。 さくらみこ :いっぱい語らせてもらったなぁ……。 堀江 :打ち合わせのときに印象的でよかったな箇所を一部抜粋すると……。 さくらみこ :みこが知りたい! 全然記憶にないんです(笑)。 堀江 :自分で話したんでしょ!(笑) まず、デビューしたころは順調ではなかったというところ。自分だけ出遅れている、思い通りにいかないことばかりで、がんばってはいるんだけど人(ファン)もあまりいなかった。でも、小さなイベントで、ひとりだけファンが来てくれて、それがめちゃくちゃうれしかったというエピソードは印象深かったです。 それを皮切りに、自分の弱音もしっかりリスナーに言おうとか、自分らしく活動しようと考えていったのが、原点なんじゃないかっていうところですね。 さくらみこ :あーそうだ! 言いましたね。 堀江 :あとは僕からの質問です。「いいこと嫌なことがいっぱいある中で、多くの人に向けて発信するライバーさんは、ときにいろいろな言葉をぶつけられる。そこに向き合うのはリスキーではないか?」と。自分のペースだけで、周りのことは気にしないでやった方が心としては楽じゃないですかと質問をしたんです。 質問の答えとしてはどちらでもよくて、僕はすっぱり分けてやる人も全然いいと思っています。ただ、みこさんの答えがとても印象的で。「がんばるほど辛いっていう矛盾はあるけど、1の冷たい声を聞いたら、100の応援してくれている人の声を聞くようにしている」と答えたんです。お手紙やメッセージも、いまだに泣きながら読んでいると。 しっかり相手と向き合って、辛かったら優しい声でしっかり癒されていると話してくれた。このスタイルは諸刃の剣に見えるんですよね。知らない人から見ると、多くの人から応援してもらっていていいねと思われがちなのですが、何万人のリスナーがいても、人間って孤独な瞬間はひとりぼっちなんです。そこであえて応援してくれている人の言葉に寄り添おうとする。僕はとても勇敢だなと思っています。さくらみこさんならではのスタイルで、とても印象的でした。 さくらみこ :ありがとうございます。こういったインタビューの場では聞かれないような、ちょっと鋭い質問をたくさんもらったと思い出しました(笑)。 堀江 :ちょっぴり意地悪な質問をしていくと、その人ならではの言葉が出てくると思っているんですよ。意地悪な質問にまた意地悪な質問を重ねていくと、回答が枝分かれしていって、枝分かれし切った先まで行けると、その人を象徴する言葉が出てくる。意地悪な質問ばっかりだったと思いますが、受けていただいてありがとうございました! さくらみこ :でもいい質問ばかりでした! 神田 :晶太くんの打ち合わせスタイルを教えてもらって、最初に参加させてもらった案件がさくらみこさんだったんですよ。横で聞いていて、さくらみこさん自身から素材を得る流れみたいなのを見て、僕自身の勉強になったのも覚えています。こういう風に楽曲作っているんだなと。このやり方は自分の制作にもかなり取り入れたので、この曲制作が僕的にもターニングポイントになったように思います。 さくらみこ :おぉ! そうなんですか! 神田 :そうなんです。僕は作詞はそこまでやらないのですが、最初にさくらみこさんが言っていたように、その人のパーソナルな部分とか、その人を象徴するような曲を作るにはこの過程が本当に大事。そこからいま2年ぐらい経て、とても痛感しています。 過去の自分に伝えたい言葉「大丈夫だよ」は、いちばん美しい形で歌詞に ――Xの堀江さんの楽曲コメントにて、“打ち合わせの際、最後に「過去の自分に何か伝えるなら?」と質問したとき、あなたは「大丈夫だよ」と一言だけ答えた“といったやり取りがあったとのことです。「大丈夫だよ」にさまざまな想いが詰まっているかと思いますが、とくにいつごろの自分に伝えたいですか?: さくらみこ :いつごろだろう……。テーマでもある“自分らしさ”に対して、運営さんに「みこさんらしさでがんばりましょう!」と言われたときに、かなり絶望感があったんです。ファンの皆には前向きに応援してもらっているのに、そのころの落ち込んでいる自分に刺さる言葉だったなっていうのがあって。 そのころってファンの人から「がんばってね」、「大丈夫だよ」と言われても、あんまり応援として受け取れなかった。どちらかというと、「がんばんなきゃ」みたいな気持ちが先行していたという記憶があるのですが、自分の中では後悔と申し訳なかったなっていう気持ちがめちゃくちゃ大きいんです。せっかく応援してもらっているのに、自分の中ではすごい下向きになっちゃっている。そのころの自分に「大丈夫だよ」って言っても、自分は受け止められないと思うので。ターニングポイントになった、少し歩み出して弱音を吐いたぐらいのときから、がんばろうってしているころの落ち込んだりしているときに伝えられたらいいなとは思います。 「大丈夫だよ」って言葉を受け入れられないときが人にはあると思いますが、いまならファンの人たちの「大丈夫だよ」はとても納得できる。気持ちを伝えたいんだけど、そのタイミングはすごく難しいんだと思います。 堀江 :「大丈夫だよ」は、先ほどの意地悪な質問の最後に出てきたんです。さまざまなことを話したうえで、ストーリーとしての自分自身を楽曲にしたいという案はもともとあったので、「そのストーリーのどこかの自分に向けてひと言に集約するとしたら何て言いたいですか」の回答が「大丈夫だよ」でした。 この言葉ひとつだけで意味が完結するわけではなくて、その前段で聞かせてもらったお話を結ぶ言葉としてこのひと言に集約される。この流れをすごく大事にしたいと思いました。もちろん楽曲にも入れたんですけど、ただ入れればいいってものでもないんです。その言葉があることがふさわしいような全体像で作ろうと作詞をしたかった。「大丈夫だよ」という言葉をいきなり言うのではなくて、いちばん美しい形で入れ込みました。それがこの曲の命題なんです。 さくらみこ :「大丈夫だよ」のひと言に至るまでかなり悩みました。「んー」って頭の中で考えて、いろんな言葉が出てくるけど、全部伝えたら世界線が変わってしまう気がして。辛かった思いもいっぱいあるけど、それらも含めて進んでいきたいから、世界線を変える言葉は言っちゃダメ。そういう意味で「大丈夫だよ」が出てきたんだと思います。 ――「大丈夫だよ」という言葉には本当にさまざまな想いがあるのですね。この流れで、制作での裏話があれば教えてください。 さくらみこ :みこはこの曲をいただいて、辛いときはとりあえず聴いて何度も何度も泣きました。それこそソロライブが決まったときなんかは、本当にいっぱい聴いて、ライブで歌う情景を妄想したりして、とてもモチベーションにさせてもらった曲です。めちゃくちゃ思い出が深くなっちゃったんですよそれで! なので、レコーディングで歌うときは、本当に本当にプレッシャーがすごくて……。 堀江 :歌い終わったあと、「苦しい~」って言ってたもんね(笑)。 さくらみこ :「苦しい~~死んでしまう~~」って(笑)。なので、いまの自分ができるところまでがんばるんだと気合を入れて、レコーディングを先送り先送りにして、曲自体は前からできているのにレコーディングがかなり遅くなってしまったんですよ。 神田 :僕らも曲を作ってだいたいの作業が終わると、歌唱の資料などをみこさんに渡して、「レコーディングいつしますか?」とスケジュールを詰めていくんですけど、全然そのスケジュールが来ないんですよね。たまに聞いてみると、「みこさんがんばってます」とだけ返ってきて(笑)。そうとう気合い入れているなと感じました。実際にレコーディングをしたのなんて、曲が完成してから1年後くらいですよ。 さくらみこ :そうなんですよ~。 神田 :どんな修行を積んできたんだみたいな(笑)。 さくらみこ :どんな修行とかのレベルじゃないのに! でも本当に気持ちを温めてきました。 神田 :「苦しい~」はどういう感情の苦しいだったのですか? 感極まってしまったのか、自分の実力が曲に対してちょっと足りないみたいな感じだったのか知りたいですね。 さくらみこ :マイナスな感情ではなくて、それこそ感極まっちゃって苦しい感じでした。胸がいっぱいで苦しいよ~みたいな。 神田 :1年温めたらそうなりますよね。 さくらみこ :そうなんです。Cメロの「今も 迷うよ 今も 悔しいよ」で、うーってなっちゃう。 堀江 :レコーディングを勢いでやって、いったん完成してから皆で聴くのですが、みこさんはすでにうるうるしているし、聴き終わったあとに何を言うかと思っていたら、横のスタッフさんを見て「え、泣いてる?」なんて言い出して。「いやあなたが泣いてるやろ!」みたいな場面もありましたよね。 さくらみこ :ありました(笑)。 堀江 :あと裏話ではありませんが、いろいろお話ししたおかげでできた曲という印象がかなり強いです。Cメロの一節の「今も迷うよ、今も悔しいよ、でも私、私でよかったよ」は、みこさんが話してくれたから辿り着けたワードだなと強く思っていますので、そこをみこさんも大事にしてくれていたのはとてもうれしいです。 さくらみこ :この一節は、ここまで来れたいまのみこを象徴してる言葉でもあるから、めっちゃうれしい気持ちでした。 堀江 :歌詞を書くときに、「でも私、私でよかったよ」は絶対大事な瞬間だと感じたのは覚えています。一行で曲(の善し悪しが)決まるみたいな感覚があって、かなり集中して歌詞を作って、このフレーズが出てきた瞬間に、「これはできた」といった感覚がありました。 さくらみこ :この部分、「かなり刺さる!? 何でだろう」とふしぎだったんですよ。みこは「自分のことあんまり好きじゃなかった」と悩んでいる時期が長くてて、「自分でよかった」は勇気のいる言葉だなと感じました。それこそほかの人が羨ましかったり、VTuberとしても人間としても劣等感をすごく感じていた。だけど、いまの自分でよかったって、私は私でよかったっていまは胸を張って言えるところまで来れたというのが自分の中でグッとくるポイントです。 堀江 :もうインタビューこれで終わってもいいんじゃないかぐらいのコメントがきました(笑)。 さくらみこ :個人的に歌詞で気になったことがあるのですが……「諦めた分だけ繋ぎ合える手のひら」という一節があって、みこは「諦めない心にぇ!」と歌っているのですが、あえて「諦めた分だけ」という一節を残したのもなにか理由があったのかな。どういう気持ちで書いていたんだろうと気になりました。 堀江 :美しいものや優しいもの、眩しいものを歌詞やメロディーとして書く場合は、自分の中にルールがあるんですよ。醜かったり悲しいものだったり、光を作る要素と同じ分の影をどこかに入れたい。 1サビでは「繋ぎ合える」や「夢みたいだね」と美しい言葉を書きたかったのですが、いきなりこのワードを置いても自分の中ではしっくり来ないんです。1回落としてから書かないと安っぽい言葉になっちゃうって感覚があって。 「繋ぎ合える手のひら」という言葉を入れたい。でもこの言葉を書くにふさわしい影はなんだろうとかなり考えたのは覚えていて、そこでみこさんの話や様子から感じたんでうしょね。実際は諦めてはいないんだとしても、小さな諦めがいっぱいあったんだろうなと。 さくらみこ :とてもビックリしたんですよ。みこはそこまで話していないのに、感じ取ったのかなと! 堀江 :うれしい。本当にたくさんお話してくれたからですし、そこをお話で嗅ぎ取るのを生きがいにやっているので……。 いよいよ10月26日にソロライブが開催。準備のほどは……? ――さくらみこさんはいよいよ10月26日にソロライブが開催されます。ライブに向けた準備はいかがでしょうか?: 堀江 :もう今週か! さくらみこ :そうなんですよ~~(涙)。めっちゃがんばっていますし、あとは待つだけなのですが、パフォーマンスに関しては不安でしかないです……。もう何より 『flower rhapsody』を歌うとしたら、レコーディングのときもすごい涙ぐんでしまいそうだったので、しっかりパフォーマンスできるか不安はあります。核となる曲なので、ソロライブでも披露するかも? 魂込めてがんばりたいなとは思っています。 神田 :やらない可能性もあるのか!?(笑) 堀江 :ライブ名に入っていて、披露しなかったらそれはそれで見てみたいですけどね(笑)。ソロライブか~~。 さくらみこ :そうなんです、ソロなんですよ! 堀江 :並々ならぬ思いでしょうなそれはもう。いまはどちらの感情が大きいですか? 緊張や不安? 「ソロライブだ! やったー!」という喜び? さくらみこ :うーん、やっぱりワクワクのほうが大きいですね。最悪、みこが号泣してても、会場にはそれをよしとしてくれる人しかいないっていう(笑)。そういう意味では安心もありますし、そういう人たちだからがんばっているところを見せたいっていう意気込みがあります。どうにかなっちゃっても、「オッケーだよ。それがみこちだ」みたいな感じに言ってくれる35P(ファン愛称)がいるからこそ咲き誇りたいみたいなって。 堀江 :ライブはなるようにしかならないからね。 さくらみこ :そうですよね! 堀江 :なるままになるのがいちばんいいと思うので、ズタボロになって歌えなくてごめんという気持ちはまったくなくていいと思いますよ。それも含めてライブだと思います。いろいろな事情もあったと思いますが、6年目で初のソロライブというのは、みこさんとして温めていたのですか? さくらみこ :運営さんのさじ加減だったので、やっと認められたというか、ひとりで立っていいぞと認めてもらえたのがこのタイミングだったんです。自分では「なんで待たせてんだよ、こら!」みたいな気持ちはないですよ。 堀江 :そうなんだね! さくらみこ :「みこでも立てるかな?」って思っていたのですが、それこそ 『flower rhapsody』を作るタイミングはそれでも絶対にステージに立ちたいみたいな気持ちでいました。機会をいただいた感謝の気持ちも強いけど、つかみ取ったっていう気持ちもめちゃくちゃあって、それがみこのタイミングだったと思っています。 会場が有明アリーナなので、これがめちゃくちゃ早い時期だったら絶対無理。いまの自分が出せる全力があって、有明アリーナという場所で、このステキな楽曲たちがあって。ある意味で、とてもベストな時期なんだと思っていますね。 堀江 :曲制作は終わっているので、意地悪な質問をする必要はないのですが、ホロライブさんには多くのVTuberさんがいるじゃないですか。おそらく同期や後輩がすでにソロライブをしている中で、「いつまで経っても私にはライブをさせてくれないんだ」みたいな悔しさはなかったのですか? さくらみこ :ソロライブに対しての想いはかなり大きかったので、もちろんとても悔しかったです。でもほかのホロライブメンバーのライブを見て、自分はもっとこういうライブをしようとか、参考にさせてもらう意味でも、さらにもっといいライブにしたい向上心に変えていきました。ホロライブメンバーもそれぞれ新しいことをやっている中で、それも参考にさせてもらえるのが後発のメリットなんですよ。35Pがもっともっと喜んでもらえるように死ぬほど燃えていました。燃えて燃えて燃えまくっていました(笑)。 ずっと積み重なっている6年間だから、もうめちゃくちゃいいライブにしたい。後発であるがゆえに、ホロライブはもちろん、他事務所のVTuberさんのライブもかなり参考にさせてもらったりしています。ただ、自分しかできないライブを絶対作りたいのでかなりがんばりました。 堀江 :なるほどね。そういう想いもあると思うので、観に行く人はお楽しみにということで! 神田 :急にインタビュアーになるじゃん(笑)。 さくらみこ :すばらしいインタビュアーみたいになっている(笑)。 ――インタビュー進行していただきありがとうございます(笑)。最後に『flower rhapsody』を聴いている方へのメッセージや、この楽曲への想いなどを改めてお願いします。 堀江 :何度も言いますが、みこさんがいたから、みこさんがしっかり自分自身のいままでとこれから、身の回りの人に正直になれたから作れた曲だということは間違いありません。一生ものになり得る曲をいっしょにできたことをとてもうれしく思っています。この曲を生み出せたことは、自分としては満足しているので、あとはみこさんや皆さんのほうで愛してもらえたらうれしいなとひたすら思っています。 みこさんの曲ではあるものの、この曲は別に誰でもないある少女の話でもあります。いろいろな方はもちろん、みこさん自身も聴いたり、歌っていくと思いますが、さくらみこのキャラソンではないということは言っておきたいです。さくらみこが口ずさまなければ、さくらみこが頭に浮かばなければこの曲は成立しないという風には作っていない。誰の歌でもあるということは、曲を作りながら頭の中で思い描いていたので、さくらみこさんの曲としても大事にしてもらったらうれしいですし、さくらみこじゃない誰かの楽曲になってくれてもそれは素晴らしいことだなと勝手に思っております。 神田 :この曲はお守りのようになるといいなと思いました。ご神体かもしれない。お守りのようにそっとそばにあると、みこさん自身もさっき何度も聞いて励まされたと仰いましたけど、そういったものになるといいなと思います。音楽の聴きかたや感じかたとしてはとてもいいものだと思うので、この曲がずっとそばにあるようになるといいなと思います。 さくらみこ :自分が何者かわからないというみこから、この曲を歌うまでに成長したというストーリーが、聴いてくれている人にも当てはまっていたらとても素敵だなって思います。この楽曲に感情移入してもらえたらとてもうれしいです。 そういう人生を夢見てくれていたらうれしいなって思いますし、みこの曲として自分のストーリーを描いた曲ではありつつも、辛いときはこの曲を聴いたらきっと乗り越えれます。ターニングポイントでこの曲を歌って、これからも毎回泣いて笑えるストーリーになっていくと感じさせる曲にしていただいていたので、この曲に恥じない自分でありたいです。この曲をずっと忘れずに、でも過去にもせずに、いつ歌ってもいまの自分に当てはまるし、ただまた別の情景が見えてくる気もしています。それこそもうすぐ始まるソロライブの情景が頭に浮かんできたり、それはいまの自分には想像ができないけれど、いろいろなことを乗り越えた先にこの曲はまた違った見えかたがしていくんだろうな。この曲といっしょに歩んでいけたらなとも思いますね。たくさんのストーリーをこれからも作っていきたいです。 さくらみこ対談記事はこちら