SDGsの厳しい現実、メディアの役割…「私たちがSDGsプロジェクトを始めた理由」
メディアとしてできることを志向し、昨春に立ち上げた新プロジェクト「ニューズウィーク日本版SDGsアワード」。企業の持続可能な取り組みを増やすために...
世界のどこかで誰かが始めた先駆的な取り組みが、地球を持続可能にする1歩となる。大切なのは、その先駆者が2歩目、3歩目と継続していけるか、そして後に続いて歩く者が増えるか。 【動画】「数十年で完成する小さな森」、考案したのは日本の植物学者 とりわけその後者、「フォロワー(追従者)を生むこと」に関して、メディアの果たす役割は大きいと考える。 気候変動から生物多様性、ジェンダー、貧困、福祉、教育、廃棄物削減に働きがい、まちづくりまで――。国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに解決を目指す課題として、17の目標と、それらを細分化した169のターゲットを定める。 だが現時点で、ほぼ全ての目標が達成困難だとみられており、現実は厳しい。 それでも、歩みを止めるわけにはいかないし、実際に世界中の企業がサステナブルな取り組みを遂行中だ。脱炭素分野をはじめ国内外で次々と導入される規制や、非財務情報であるE(環境)、S(社会)、G(企業統治)を考慮して投資するESG投資の潮流と相まって、SDGsは企業の生存戦略と不可分になったと言っていいだろう。 一方で私たちメディアは、先駆的な企業の取り組みへのフォロワーを生み、社会全体に広めるための努力を十分にしてきただろうか。 画期的な製品や大規模なプロジェクトといった、比較的目立つ事例ばかりを一過性のニュースとして伝えるだけになっていないか。また、ヨーロッパ中心に進んできたSDGsの議論の中で、見過ごされてきた日本企業の実践もあるのではないか。 そういった問題意識から、ニューズウィーク日本版では昨春、「SDGsアワード」プロジェクトを立ち上げた。 たとえ小さな取り組みであっても、それをメディアが広く伝えれば、他の企業で新しいアイデアにつながったり、何をすべきかの参考になったりするはず――。そのように考え、日本各地の企業からプロジェクトへの参画を募った。 そして参画企業の取り組み事例を、本誌ウェブサイトで次々に発信していった。 日本のSDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授を外部審査員に招き、厳正な審査を行ってアワード受賞企業を選出。去る3月15日、東京アメリカンクラブ(東京・港区)で授賞式を開催し、受賞企業を発表した。 この後、最優秀賞の事例を英訳し、ニューズウィーク米国版で世界に向けて発信する予定だ。 本誌の「SDGsパートナー企業」となった企業は、北は北海道から南は鹿児島県までの、大手メーカー、金融機関、ホテル、化粧品会社、宅配サービス会社、印刷会社や不動産会社など、計63社(一覧参照)。老舗企業もスタートアップもある。これらパートナー企業の事例を紹介する記事を、ウェブサイトに77本掲載している。 パートナー企業にアンケートを取った結果、従業員数500人以下が6割強と、中堅中小企業が比較的多くを占めた。約半数が海外拠点を持ち、SDGsの社内体制に関しては濃淡がある。企業規模も影響しているだろうが、専門部署を持たない回答社が大半で、7割が取り組み開始から10年たっていない(グラフ参照)。「わが社はどのように取り組んでいけばいいか」そんな模索が今も各社で続いているとみることもできそうだ。 授賞式には、パートナー企業の経営者やSDGs担当者ら100人以上が出席した。アワード受賞者の発表後、受賞企業5社の代表者と蟹江教授、私が参加したトークセッションも実施し、参考になる国内外の事例から非財務情報の重要性まで、企業から質問が投げかけられた。 続けて設けた立食形式の懇親会では、参加者たちが自発的に活発な交流と意見交換を行う様子が見られた。