自衛隊派遣はホルムズ除外か? 明言しない日本政府への疑問
政府が検討を始めた自衛隊の中東派遣方針をめぐり、具体的な活動領域や内容の範囲が焦点となっていますが、元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は「ホルムズ海峡」も活動領域に入るのかについての政府の説明に疑問を呈します。何が問題なのか。美根氏の論考記事です。 【写真】安倍首相は米国とイランの仲介をできるか?
ホルムズ海峡が活動領域になるか明言せず
日本政府は10月18日、中東へ自衛隊を派遣することを検討するとの決定をしました。 このタイミングでの自衛隊の中東派遣というと、米国が提唱するホルムズ海峡での船舶航行の安全を守る「有志連合(海洋の安全保障のためのイニシアチブ)」に参加すると想像する人が多いかもしれません。しかし、菅義偉(よしひで)官房長官は18日の会見で、これには「参加しない」と明言しました。
何の目的で派遣するのかについては、「中東の平和と安定」と「我が国に関係する船舶の航行の安全を確保すること」だと説明。 派遣地域は「オマーン湾、アラビア海の北部の公海、(紅海とアラビア海を結ぶ)バブルマンデブ海峡の東側の公海を中心に検討する」とだけ述べ、肝心のホルムズ海峡には言及しませんでした。 自衛隊が行う業務については「情報収集のための調査研究」であるとしました。 24日の衆院安全保障委員会でも、河野太郎防衛相は「活動海域はこれから検討して決めていく。どこかを外すということを決めているわけではない。ホルムズ海峡も含めて検討する」と答弁するにとどめています。 日本政府による説明の問題点を検討する前に、まず現地の地理的状況を確かめておきましょう。ペルシャ湾からインド洋へ向かって南東方向に、ホルムズ海峡、オマーン湾、アラビア海北部へとつながっていきます。その海域の中で、一番狭く、武装勢力に襲われる危険が高いのがホルムズ海峡であり、そこでの船舶の安全な航行の確保が課題になっているのです。 この海峡は、海上輸送される世界の石油の約3分の1、液化天然ガスの約4分の1、とりわけ日本への石油は約8割が通過する要衝です。ここで石油タンカーが攻撃されるなどして自由な航行が妨げられると、日本はもちろん、世界にとっても大問題となります。今年6月13日、ホルムズ海峡付近で日本とノルウェーの海運会社がそれぞれ運航するタンカーが攻撃された際、日本には衝撃が走りました。 日本政府は、ホルムズ海峡がそのような状況であるからこそ、自衛隊の派遣を検討し始めたのです。状況からみると、自衛隊が派遣されれば、当然ホルムズ海峡で活動することになると考えるのが自然でしょう。しかし、官房長官の説明は、自衛隊は「ホルムズ海峡(その付近を含め)」へは派遣しないという印象を与えるものだったと思います。