自衛隊派遣はホルムズ除外か? 明言しない日本政府への疑問
活動は「情報収集」だと危険ではない印象与える
官房長官は必ずしも間違った説明をしたのではありません。実際「自衛隊をホルムズ海峡へは派遣しない」とは言い切っていません。しかし、このもっとも重要な点を、官房長官は説明しなかったのです。 しかも、自衛隊の活動内容は「情報収集のための調査研究」であるというあまりにも白々しく思える説明でした。自衛隊が派遣された場合、本当に必要な活動は、官房長官が述べたように「船舶の航行の安全を確保すること」であり、場合によっては武装勢力などのような危険要因の排除も必要となります。だからこそ、武器を保有している自衛隊が派遣されるのです。 日本政府の説明は、上記のような自衛隊派遣の「真の目的」についても、また活動地域についても、本当に大事なことには触れず、つまり、いかにも「自衛隊は危険ではないところへ、かつ危なくない任務で派遣するのだ」という偽りの印象を与えようとしたと考えずにはいられません。 日本政府がこのような説明をしたのは、国民に対して、「自衛隊を危険な任務にさらすわけではない」という点を強調したかったからだと思います。しかし、それでは国民に大事なことを伝えないまま、自衛隊が海外で危険を伴う活動ができるよう既成事実を積み重ねていくことになるのではないかと懸念します。
真実伝えないまま危険地域への派遣を進めるのは姑息
中東における日本の立場は容易なものでありません。イラン核合意からの離脱をきっかけに敵対する米国とイラン、双方の顔を立てなければならないからです。 米国は中東の石油を必要としていません。トランプ大統領は、ホルムズ海峡での輸送航路の安全は、中東に石油を依存している国々が自国で守るべきだと主張し、有志連合への参加などを求めています。日本の自衛隊にもホルムズ海峡で活動することを要求し、また情報収集以上のことを求めてくる可能性は十分にあり得ます。たとえば、船舶に対する攻撃を排除することです。 一方、イランは自衛隊が情報を収集するのであれば、それをイラン側に提供することを求めてくる可能性もないとは言い切れません。そもそも日本の自衛隊が米軍と緊密に協力すること自体を問題視してくることも考えられます。 日本は今年6月に安倍首相自らイランを訪問して首脳会談を行うなど、これまで中東地域の緊張緩和に務めてきました。 自衛隊の派遣は、そうした活動と並ぶ重要な国際貢献であり、かつ、危険を伴う国際貢献であるからこそ、公明正大に進めていくべきです。実態とかけ離れた説明をして、国民に真実を伝えないまま、危険な地域への派遣を既成事実化するのは姑息であり、また危険な任務もいとわない自衛隊員の努力に報いることにならないと思います。 日本政府は、自衛隊派遣について、関連情報の開示を含め、本当の重要性と意義が国民に伝わるような説明をするべきでしょう。
------------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹