吹奏楽部「地域移行で消滅」の危機乗り越えるには 吹奏楽文化を消滅させないための地域のあり方
指導者を育て、アメーバのようにバンドを増やす
現在、同楽団は開智国際大学の学生約60名、社会人あるいは他大学の学生約60名の120名前後で活動している。今後、部活動移行の推進期間が終わり、中学生を受け入れる場合、どのような体制を考えているのか。 「以前高校で教えていた時の経験からすると、やはり1人ひとりの個性を把握して指導するうえでは、一団体60名から70名程度が理想です。私は吹奏楽部活動指導員認定講習(主催:一般社団法人日本管打・吹奏楽学会)の講師も務めていますが、いま開智アカデミックでは、社会人メンバーで指導員の認定を受けている人が何人かいます。そうした人たちが次の指導者となって、1つのオーケストラでなく、アメーバのようにここから派生してバンドを増やしていきたいと考えています」 一般社団法人を立ち上げ、そこに所属してもらい指導者を派遣していく仕組みなども整えたいと語る石田氏。開知アカデミックはまだアメーバのように分かれる段階には至っていないが、すでに市内の別の楽団の新規立ち上げを支援するなどしているという。 「先日も、市内のある小学校からスピンアウトした吹奏楽団の立ち上げに少々携わりました。開智アカデミックに所属している指導員の資格を持った方に、学生とともに指導に行ってもらいました」 柏市内では、中学校に先んじて、小学校の放課後活動の地域移行が進んでいる。市立小学校で4年生以上が放課後などに行っている「特設クラブ活動」(部活動に相当)については、2026年度以降に廃止される方針だ。 「2026年度以降に廃止なので、すでに4年生の団員募集は行われておらず、実質は活動停止している小学校が多いです。ただ、中学校と同様に、地域で活動を続けていこうとしているクラブもあり、一部の相談を受けたクラブについては支援をしています」 任意とはいえ、これまで柏市では特設クラブを設置している小学校が多く、とくに吹奏楽クラブの活動は、ほかの自治体に比べても盛んであった。例えば、柏市立酒井根東小学校は、東日本学校吹奏楽大会において、2017~21年まで毎年金賞を受賞している(2020年は新型コロナウイルスの影響により大会未開催)。 小学校から楽器に触れ、音楽の楽しさを知った子どもたちは、中学生・高校生・大学生・社会人になっても吹奏楽を続けていく傾向にある。 「地域移行が、小さいうちから音楽に親しむ機会を減らしてしまう契機になってしまってはよくありません。今後も、あらゆるクラブや部活が地域で活動を続けられるように支援していきたいと思っています。ただ、先の事例は、これまで顧問だった小学校の先生がやる気のある方で、かつ校長先生がこれまで通り音楽室も使わせてくれているからこそできていること。今後、地域移行で学校の施設が使えなくなれば、子どもたちの居場所がなくなってしまいます」 地域移行においては、学校の施設を使い続けられるように地域に開いていくことや、地域の指導者を育てていく仕組みの重要性が感じられる。後半では、教員の働き方改革や学生の勉強との両立で練習時間が短時間化する中でも、効率的に音楽を楽しみ上達する運営ノウハウや練習方法について、石田氏と吹奏楽作家のオザワ部長との対談形式でお届けする。 (企画・文・撮影:吉田明日香) 関連記事 【後編】吹奏楽「働き方改革や地域移行」の荒波くぐり、短い練習で子どもを伸ばすには
東洋経済education × ICT編集部