「ひどい時には失禁も」…社会復帰を目指す元・伝説のストリッパーが苦しみ続けた「酒との付き合い方」
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第87回 『上半身を包帯でグルグル巻きに…借金にまみれた元・伝説のストリッパーの「子どもみたいなウソ」とバレた後にとった「驚きの行動」』より続く
大阪に戻った一条の動向
大阪に戻った一条さゆりは1978(昭和53)年、食堂で働きはじめた。フェミニズム運動の女性たちが、国鉄(現JR)天満駅近くで営んでいた「もりもり」という店だった。 その年の夏、一条が客としてやってきたのがきっかけである。仲間と一緒に前年暮れから店を開いていた松井寛子はそのとき、この女性がかつて伝説のストリッパーだったとは知らなかった。 「白いワンピースを着て、小柄なわりにえらい、おっぱいの大きなおばちゃんやなと思ったんです。なんと言うんですかね、あのおっぱいは。昔、言うたでしょう。そう、そう、トランジスターグラマー。そりゃ、外から見ただけでも、形のええおっぱいでしたよ」
松井寛子の経歴
松井の言う、「トランジスターグラマー」は小柄ながら豊満で性的魅力のある女性を表現する和製英語である。55(昭和30)年に日本で発売されたトランジスターラジオが、従来の真空管ラジオに比べて小型で高性能だったことからこの表現が生まれた。 松井は終戦直後の46年、大阪市東住吉区に生まれた。現在は十三で居酒屋「風まかせ」を開きながら、映画の宣伝プロデューサーをしている。私は「風まかせ」を訪ね、松井から話を聞いた。 「戦後の民主主義教育をもろに受けた世代です。先生が平等、権利なんてことをよく口にし、デモにも参加されていました。だから市民運動の精神が私の身体のなかに、入っているんとちゃいますかね」 高校を卒業し会社勤めをした後、大阪市教職員組合に転職する。そこで、集会や寄り合いに参加するなか、社会活動家やカメラマン、映画関係者ら文化人と交流した。そんな仲間たちと一緒に、大阪府豊中市に喫茶店「ぼちぼち」を開いたのが72年。すぐに関西文化人のたまり場となった。
