NHK大河「光る君へ」3分10秒セリフなしの渾身「枕草子」シーンに落涙 そして舞台は越前へ…第22回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第22回「越前の出会い」が2日に放送される。 【写真】人気声優が声を担当 心をつかみそうな新たな動物が登場 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。5月26日に放送された第21回「旅立ち」では、定子(高畑充希)の落飾が中関白家にもたらした悲しみ、ききょう/清少納言(ファーストサマーウイカ)の決意、越前下向を控えたまひろ(吉高由里子)の道長(柄本佑)との邂逅(かいこう)が描かれた。 衝撃の落飾となった定子さま。現代は兼業の僧もいるが、平安における出家は俗世からの離脱を意味する。自ら髪を落とすことは社会的な自殺である。ドラマのコラムで「ドラマみたいな展開」と表現するのは無粋だが、二条邸の火事は史実とされており、まさにドラマみたいな展開…。尼削(あまそ)ぎの髪形さえも麗しい定子さまが「もうよいのだ」と言った瞬間キュッと上がった口角、そして「おなかのお子のため、中宮さまはお生きにならねばなりませぬ」と決死の説得を試みるききょう。もうこの部分だけですでに張り裂けそうになった。 ききょうは、まひろとのフランクなおしゃべりや言葉遊びを経て筆をとり、中宮さまのためだけの文章をつづり始める。夜にひとり文机(ふづくえ)にたたずみ、墨をする。自らの命に代えても守りたいほど心酔した定子さまと、四季を愛でながら過ごした日々を、自分にしかできない筆致で記す。このシーン、ききょうの文机のカットから定子のモノローグ「春はあけぼの」までセリフなしで構成されており、実際に計ってみたところ3分10秒あった。「枕草子」に余計な言葉はいらないんだという作り手の本気に身震いし、そしてただただ泣けた。 「源氏物語」の書き出し「いづれの御時にか」を知らない日本人は結構いると思うけれど、「春はあけぼの」を知らない日本人はそんなにいない。かつての授業で知識として触れた記憶や思い出が、視聴者の数だけ回収されていく。ききょうにとっての「光る君へ」は間違いなく定子さまで、その経験を日本人は知らず知らずのうちに義務教育でシェアできているという幸せに感謝するばかりだ。文学ファン的な立場から語りすぎていることは自覚しているが今回だけはどうか許してください。 こっちも大事なシーンだったので触れておくと、越前への出立前に久々に文を出したまひろは、六条の廃邸で道長と密会する。道長は、まひろの前だけでは“三郎”に戻って本音が言える。「俺の無力のせいで誰も彼もすべて不幸になった」「これからどこへ向かってゆけばよいのか、それも見えぬ」。公卿のトップである道長の、誰にも打ち明けられない孤独や心の迷い、寂しさ。この場だけが素直な自分でいられる。 対するまひろは、あの庚申待(こうしんまち)の夜、「妾(しょう)でもいい」と本心を言えなかった10年分の後悔を打ち明け、別れの口づけを交わす。この場面の直後、すぐ越前への道中にカットは変わったが、2人の関係性を陰ながら応援している立場としてはあらゆる可能性を感じているので、あの…廃邸の夜ってこのまま終わった認識でよろしいのでしょうか…。謎は残されたまま、舞台は越前に移った。 さあ、「越前編」突入の第22回。敦賀の松原客館に為時(岸谷五朗)とともに立ち寄ったまひろは、宋人の朱(浩歌)、通事の三国(安井順平)らに迎え入れられ、浜辺では宋の青年・周明(松下洸平)と出会う。宋人の歓待を受けた翌日、父と娘は越前国府に到着。早々に激務で体調を崩してしまった為時のもとに医師として現れたのは…という展開が描かれる。 廃邸で道長に「越前で生まれ変わる」と宣言したまひろ。ここからの越前パートは「栄花物語」や「大鏡」「小右記」には載っていない創作の割合もさらに増えてくると思うので、大石静氏ならではのストーリー運びにワクワクしている。また、毎度ドラマ内に登場する動物に癒やしを感じているので、猫ちゃんの小麻呂の出番が減ってきたなか、宋のオウムが一気にスター候補に躍り出て胸がときめく。そして謎の男・周明は何者か。筆者の不動のMVP・直秀(毎熊克哉)ぐらい沼にハマらせてほしい。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社