明豊、最後にドラマ 息詰まる延長戦にサヨナラ 「歴史的4強」大興奮 /大分
<センバツ甲子園> 「歴史を作ったぞ!」。第91回選抜高校野球大会出場の明豊は31日の準々決勝で、甲子園で100勝以上を挙げている強豪・龍谷大平安(京都)との息詰まる投手戦の末、延長十一回、劇的なサヨナラ勝ちを収めた。春夏通じて初の甲子園ベスト4。応援スタンドは喜びと興奮に包まれ、選手たちへの拍手は鳴りやまなかった。明豊は2日、決勝をかけて習志野(千葉)と対戦する。【田畠広景、砂押健太】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 ……………………………………………………………………………………………………… ▽準々決勝 龍谷大平安 00000000000=0 00000000001=1 明豊 (延長十一回) スコアボードに並ぶ0の列。苦しんだ末につかんだ延長十一回裏2死満塁。「自分が決める。フルスイングしよう」。途中出場で甲子園初打席の後藤杏太選手(3年)が打席に入った。目の前でスタンドの期待を一身に背負った今大会好調の藪田源選手(同)が三振した直後だった。後悔しないよう自分を落ち着かせ、振り切った。バットの芯に当たった打球は快音を響かせ、センターの後ろに転がる。「やった!」。明豊の新たな歴史を作った瞬間だった。 最後までこの日は投手戦だった。自慢の打線が龍谷大平安投手陣のボールを絞りきれず、攻めあぐねていた。この重苦しい展開の中、支えたのが投手陣だった。 先発は、甲子園初登板の寺迫涼生投手(3年)。夏から肘の故障で戦列を離れていた苦労人だ。「これまで投げられなかった分を出し切る」と意気込み、走者を背負いながらも気迫のこもった投球で五回まで0点のまま抑えきった。「よく投げてくれた。尊敬します」。母佳美さん(44)は手元のタオルを握りしめた。 六回からはエースの若杉晟汰投手(2年)が登場。いきなり2死満塁のピンチを招いたが、後続を内野ゴロに仕留めて無失点で切り抜けた。その後は「速球が走っていた。90点ですね」というように徐々に球速を増し、龍谷大平安打線を抑え込んだ。しかし、疲れがみえはじめた十一回。ストライクが入らず、1死からストレートの四球を出すと、「頼れる先輩」の大畑蓮投手(3年)にスイッチ。力のある140キロ台の速球を次々にミットに投げ込み、後続を断つと、その裏にドラマが待っていた。 同窓会長の後藤明文さん(66)は「選手たちを信じ、既に準決勝を見に行くための電車のチケットも買っている。決勝まで行くと思うので、ホテルも予約します」と笑顔。初の甲子園優勝まであと二つ。大歓声に後押しされた明豊ナインの挑戦は、まだ終わらない。 ◇その瞬間OBも抱き合う ○…明豊の応援スタンドには、野球部OB約20人が駆けつけた。現役時代のユニホームを着込み、現役の野球部員とともにメガホンを片手に声をからす大声援。今春卒業したばかりの中村圭吾さん(18)は、センバツに出場できなかった自分たちの悔しさを晴らす活躍に「誇れる後輩たちだ」と熱が入る。劇的なサヨナラ勝ちが決まると、喜びが爆発。スタンド中で抱き合い、歴史的瞬間を分かち合った。 ……………………………………………………………………………………………………… ■青春譜 ◇遠い1点へ火蓋切った「守備の人」 宮川雄基選手(2年) 「うおーっ!」--初の甲子園ベスト4を決める歴史的なサヨナラのホームベースを踏んだ。劇的な勝利を演出した功労者は両手の拳を強く握りしめた。このときの記憶はほとんどないという。 延長十一回裏。ネクストバッターズサークルで、先頭打者の表悠斗主将(3年)のヘッドスライディングを見ていた。アウトだったが、気迫のプレーに「気合が入った」。前の打席で打ち損じ、この打席も攻めてくると読んでいた内角直球をフルスイング。打球は右前に落ち、クリーンヒット。「遠い1点」をもぎとる火蓋(ひぶた)を切った。 171センチ、62キロの小柄。パワーよりも器用さが光る「守備の人」だ。遊撃手として昨秋の九州地区大会では失策0。今大会も2回戦の札幌大谷戦で、難しい打球を処理して重殺にするなどチームを救ってきた。「全国には足の速いランナーがたくさんいる」。居残り練習では常に守備に時間を割いてきた。 しかし、「バットでもチームに貢献したい」との思いは募った。2番打者で犠打が多い「小技師」だが、ヒットを打ちたかった。登校前、寮で必ず素振りの練習をするなど人知れず努力を続けていた。十一回の快打はその結晶だった。 塁上でも落ち着いていた。四球や失策で進塁。満塁の好機につないだ。打席には仲の良い先輩の後藤選手。三塁上から「気持ち、気持ち」と声をかけ続けると、思いは届き、後藤選手のサヨナラ打を呼び込んだ。 「これからも勝負強さでチームに貢献したい」。小粒の努力人が決勝を懸けた戦いでも守備・打撃で活躍する。【田畠広景】