「世界一過酷な400メートル」ジャンプ台逆走レースに、100キロマラソン経験者が挑んでみた 〝四つんばい〟で感じた絶望と、連覇達成者が語る魅力
残りおよそ100メートル。しかし頂上が遠い。心が折れそうだったので上はあまり見ないようにした。中盤で勾配が再び急になり、木枠に足だけではなく手もかけて登った。「お疲れさまです。あと少しです、頑張りましょう」。他の挑戦者が声をかけてくれるが、返事をする余裕がなかった。 ようやく踏破してクッションに倒れ込むと、両足全体が熱を持っているのが感じられた。急激に心肺に負荷がかかったせいか、しばらくせきが止まらなかった。他の参加者も同様だ。医務室では点滴を受けている人もいた。タイムは7分13秒で、同じ組で出走した57人のちょうど真ん中だった。 ▽レース前に襲われる後悔。それでも「出し切った」と言える日にしたくて 124人が出場した女子シングルは、札幌市の会社員沢田愛里さん(44)が5分5秒で2度目の頂点に立った。「1回目の時は無欲で優勝してしまった。今回はつかみにいったので、すごくうれしい」
沢田さんによると、趣味の山登りとは違い、ゴール地点がはっきり見えることがこのレースの魅力だという。短時間でも段階があり「前半、中盤、後半で走路の感覚が全く違うので、全て攻略するのが面白い」と強調した。 708人が参加した男子シングルを3分35秒で制した札幌市のクロスカントリースキーヤーで陸上自衛官の田中聖土さん(29)も「めまぐるしく変わる斜度に合わせた走法で対応する必要がある」と口をそろえる。 最も急な100~200メートルで体力を使い切るため、次の100メートルは傾斜が少し緩やかになっても体は追い込まれる。「周囲も疲れている中、ここで頑張れるかどうかがタイムに出る」と話す。最後の100メートルは動かなくなった足で階段を上らなければならない。過去4回出場した経験から、それぞれの区間で体力をどこまで温存するか、ぎりぎりのラインでテンポや歩幅をコントロールしているという。 田中さんは出場前、今回を最後に引退も考えていたという。あまりのつらさから、毎年2週間前になると「なぜエントリーしてしまったのか」という後悔に襲われるそうだ。それでもなお引かれるのは「短時間で自分の限界の先に行けるのが魅力。『出し切った』と言える日にしたいから」だといい、4連覇を果たした気分を問われると「最高です」とさわやかな笑顔を見せた。