【コラム】「皆既日食」アメリカ横断(後編) “180秒”の天体ショーの瞬間は? 予報士記者が明かす取材のウラ側
■【日食開始】予想通り西から薄曇りに…世界が一変した“180秒”
午後1時をすぎると、予想通り西側から、すじ雲(巻雲)がかかり始めてきた。 午後2時14分、太陽が欠け始めた。集まった人々は日食グラスを手に取り、空を見上げ始める。30分ほど経過すると、すでに40%以上が欠けているように見え、日食が進行するスピードはとても早く感じた。 皆既日食まで10分を切ると、太陽は三日月よりもさらに細い爪の形になった。光の強さもだいぶ落ち、周辺は木漏れ日がさすような雰囲気となる。気温もだいぶ下がって寒くなり、カメラの後ろにいた姉妹は思わず毛布を取り出して膝にかけていた。うす曇(巻層雲)のおかげで日食グラスをつけずとも太陽の様子がよく見えた。 そして午後3時26分。一気に暗くなり、太陽の左下から月の影が見えた。薄曇りのおかげか、日食グラスをつけずに肉眼ではっきりとダイヤモンドリングが見えた直後、周辺は闇に包まれ、集まった人たちから大きな歓声が上がった。 漆黒の太陽の周りには白く輝くコロナが異彩を放っている。周辺を見渡してみると、地平線あたりは夕焼けのような赤みがかっている。筆者がいる場所は月の影にすっぽり入っているが、影に入らない周辺が夕焼けのようになって見えるのだ。薄曇りのせいか、空に星は見えなかったが、辺りは今までに体験したことのない幻想的な雰囲気に包まれた。手元の温度計を取り出して確認すると14.6度。日食前の25度からおよそ10度近く気温が下がっていた。 神秘的な皆既日食が続いたのは、180秒。再びダイヤモンドリングが姿を現すと、周辺は一気に明るさを取り戻し、辺りは家族連れらの平和な笑い声に包まれた。
■【日食終了後】帰路につく車でニューヨークに向かう道は大渋滞に…
皆既日食が終了すると、ピザやタコスのフードトラックは次々と営業を終了。詰めかけていた人たちが一気に帰路についた。撤収作業を終えホッとして空を見上げると、上空は灰色っぽい高層雲に変わっていて太陽はほとんど見えなくなっていた。 ニューヨークに向かうため車を走らせると、日食見物帰りの人で道路は大渋滞。田舎のバーモント州では珍しいのか、わざわざ自宅の広い庭を横切って道路脇に出て、スマホで車の列を撮影する地元住民もいた。 ニューヨークに到着したのは、通常と比べて3時間遅れの翌日未明のことだった。
■筆者プロフィール
末岡寛雄 NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。趣味は音楽鑑賞。