西川美和監督の傑作『すばらしき世界』で反社会的存在への不寛容を考える
■予定調和だが、圧倒的な傑作
そんな三上の葛藤や社会の不寛容をテーマにするのなら、彼を嫌ったり恐れたりする市民たちが必要になる。つまり不寛容を体現する人たちだ。しかし西川美和監督は、そんなステレオタイプなキャラクターを本作に配置しない。本作で描かれる市民たちは、三上の純粋さに引かれて何かと気にかける優しい人ばかりだ。 善悪二分は僕も嫌いだ。人は矛盾する存在だ。でも結果として三上の知人たちは、善意や優しさのステレオタイプになってしまっているとの見方もできる。ラストについても、古典的な予定調和だと僕は感じた。 ......と苦言を書きながら、この作品は近年の邦画において圧倒的な傑作だとも断言する。西川が提示するテーマには100%共感する。1つ1つのシーンに込められたメタファーが豊かだ。カメラも秀逸。俳優たちもすばらしい。構成も見事だ。 論旨が矛盾している? 細かいなあ。いいのです。三上が体現するようにそれが人間であり、そして映画でもあるのだから。 『すばらしき世界』(2021年) 監督/西川美和 出演/役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉 <本誌2024年6月11日号掲載>
森達也(作家、映画監督)